その肉は本当にウマイ? 美味しい肉との出会い方~すき焼き編~【後編】

2017.5.19 10:07 更新

読了時間:6分51秒


“本当に美味しい肉”とは何か? 美味しい肉と出会う秘訣を知るべく、浅草の老舗すき焼き店「ちんや」を訪れたインタビュー企画の後編。前回は牛肉における脂肪の“量”と、日本食肉格付協会が定める肉質等級について、同店の六代目店主である住吉史彦さんに教えてもらった。そして今回は、住吉さんがそれらよりも重要と語る、脂肪の“質”についてうかがった。

その肉は本当にウマイ? 美味しい肉との出会い方~すき焼き編~【前編】

肉の質に関係する2つの脂肪酸

前回紹介したちんやの“適サシ宣言”がされる以前に、店主がとてもとても困っていたことがあるという。

住吉史彦店主「お客様に“霜降り肉はいかがですか?”とサジェストすると、胃もたれするからいらないよ、と断られることがたびたびありました。霜降りだから胃もたれするというわけではないんですが、それをお客様に説明するのがすごく難しかったんです」

脂肪は脂肪酸とグリセロールで構成されており、その脂肪酸は不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の2つに分けられる。前者の代表的なものにオレイン酸、後者にステアリン酸というものがあり、それぞれの融点は16.3℃と69.9℃。住吉さんによると、この融点の違いというのが、少なくともすき焼きにおいて美味しさを大きく左右するという。

「すき焼き」という料理名だが実際は煮物。そのため焼肉などと比べると調理温度が低く、脂肪が固形で残りやすい

融点が低いということは、脂肪が低い温度で融けるということ。住吉さんによると、融けやすい脂の肉の方がすき焼きにマッチし、胃もたれがしにくいという。そして、この不飽和脂肪酸はメスの脂に多く、肥育期間が短い牛よりも長い牛に多く含まれている。

住吉店主「適サシ宣言では、融けやすく美味しい牛肉を召し上がっていただくために“黒毛和牛のメスの肉であること”と“充分な月齢(30か月)まで牛を肥育することにより、脂肪の融け方が良いこと”という条件を定めました。これは、不飽和脂肪酸を多く含む牛肉を使用するということなんです」

ちんや六代目店主の住吉史彦さん

サシの入り方を含めた脂肪の量も、美味しいすき焼きを実現する大事な要素だが、牛肉に関連する2つの脂肪酸の特徴は、それ以上に注目すべきポイントと言えそうだ。

本当に美味しい肉と出会うために

こうして、住吉さんに美味しいすき焼きについてうかがった今回の特集。それでは、肝心の美味しいすき焼きと出会うためには、どんなところに意識すればいいのか?

住吉店主「一つは、“美味しそうに見える肉が美味しい肉とは限らない”ということを、意識してみるのがいいかもしれません。テレビなどで薄いホワイトピンクの肉を見て“美味しそう”と感じる人は多いはずです。でもピンク色は、短期肥育で熟成させていない肉の特徴なんです。一方、長期肥育を経て熟成させる肉というのは、色が濃くなって小豆色(濃い赤色)になります。人によっては、鮮度が悪いのでは?と感じるかもしれませんが、長期肥育した牛の肉は色が濃いんです。そのため、(美味しそうに見える)ピンク色の肉が必ずしも美味しいわけではない、と言えるのではないでしょうか」

長期肥育がされているか熟成期間が長いと、肉はピンクよりも濃い色になる。またその両方だと、色はさらに濃くなる

また肉の融点は生肉を観察することで分かるという。

住吉店主「不飽和脂肪酸の代表であるオレイン酸の融点は16.3℃です。すなわち、不飽和脂肪酸が多い肉は、常温にさらされるだけで脂が融けていきます」

ちんやで提供される「適サシ肉」。運ばれてきてしばらくすると、脂が融けて光沢が出てくる

すき焼きだけでなく焼肉やしゃぶしゃぶなどは、調理前の肉がテーブルに運ばれてくる。そのため、生肉を観察するのは、美味しい肉と出会うために有効な方法だという。

肉を本気で知ろうとすると、化学の分野などにまで話が及び、聞けば聞くほどに、それを知ることはとても一朝一夕ではできないと痛感。ただそんな中で、ランクや見た目について知っているだけでも、美味しい肉と出会う可能性はぐっと高まりそうだ。まずは、A5ランクといった言葉や、色といった見た目に惑わされないよう心がけるのが、美味しい肉と出会う第一歩ではないだろうか。

★今回教わった「美味しい肉との出会い方」★
・歩留等級(A~C)は一頭の牛から取れる肉の量を表しており、味には関係ないことを意識
・味に関わるのは肉質等級(1~5)だが、それが高い肉=美味しい肉とは限らないので、やみくもに5等級を選ばずほかの等級も試してみる
・常温で脂肪が融けてくるか、生肉を少しの間観察してみる
・美味しそうに見える肉と美味しい肉は別物。見た目での思い込みを捨てる

Information
ちんや
TEL:03-3841-0010
住所:東京都台東区浅草1-3-4
営業時間:[月、木、金曜]12:00~15:00、16:30~21:30
[水曜]16:30~21:30
[土曜]11:30~21:30
[日曜・祝日]11:30~21:00
http://www.chinya.co.jp/

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