その肉は本当にウマイ? 美味しい肉との出会い方~すき焼き編~【前編】

2017.5.12 10:07 更新

読了時間:9分


美味しい肉とはいったい何だろうか? 脂がたくさんのっている霜降り肉? それとも血の味が感じられるようなワイルドなもの? 今回は浅草にある老舗すき焼き店「ちんや」におじゃまし、本当に美味しい肉とは何なのか、そしてそれに出会うための秘訣をうかがった。

雷門で有名な浅草寺。国内はもちろん、外国人観光客からも人気のこのスポットから徒歩1分の場所にあるのが「ちんや」だ。明治13年から料理屋としての営業を始め、同36年にすき焼きの専門店となった。すき焼きといえば、日本が誇る伝統的な肉料理。今回美味しい肉料理を探すにあたって、このちんやを訪れることにしたのには、大きな理由がある。

まずは実食。話はそれから

細かいことは抜きにして、まずは同店のすき焼きをいただくことに。今回オーダーしたのは、すべての肉が「熟成適サシ肉」(適サシ肉については後述)である「桐」一人前9900円(税込) 。

肉には細かくサシが入っている。ただ、サシの量は控えめな印象。ざく(すき焼きなどの鍋料理で肉などに沿える野菜など)は豆腐や春菊、シイタケなど

最初にネギを焼き、しばらくしたらその上に肉を載せていく。すぐに和牛特有のいい香りが漂う

その後、間髪入れずに割り下を投入

肉に火が通るまでしばらく様子見

一杯目はネギと肉だけで提供されるのがちんやのスタイル

具材は溶きタマゴにつけていただく。タマゴは浅草の専門業者から仕入れている。そのほか豆腐やネギなどもこだわりのもの

調理中、割り下を煮詰めた香りだけでなく、肉の香りもちゃんと漂ってきて、食欲をそそられた。そしていざ肉を口に含んでみると、旨みが凝縮されていて、脂はほどよい。さらに、食べ終えたあとはさっぱりしていたので、いくらでも食べられそうだった。

ちんやの“適サシ宣言”から見る牛肉の等級

2017年1月15日、ちんやの六代目店主が“適サシ宣言”なるものを、同店主のブログで実施。それはネットメディアを中心に瞬く間に拡散され、大きな話題を呼んだ。

適サシ宣言とは以下の通り。

1.黒毛和牛のメスの肉であること
2.脂肪の量が、日本食肉格付協会による牛枝肉取引規格で「4等級」であること
3.充分な月齢(30か月)まで牛を肥育することにより、脂肪の融け方が良いこと(=脂肪の融点が低いこと)
4.サシの形状が「粗ザシ」ではなく「小ザシ(サシの入り方が細かい)」であること。加熱した場合に、サシと赤身の境界線から「和牛香」を発生させること

当初メディアでは、上記の中でも特に「4等級であること」、すなわちA5ランクなどに見られ、最高級とされる5等級の肉からの決別がセンセーショナルに扱われたわけだが、その真意はどこにあるのか。

ちんや六代目店主の住吉史彦さん

住吉史彦店主「まずお話ししておきたいのが、5等級の肉が悪い肉ということではもちろんありません。ちんやで宣言させていただいたのはあくまで、当店のすき焼きに合う肉の条件の一つが、4等級ということなんです」

そもそも、ここで等級について考えてみたい。例えば、グルメ番組で肉料理が紹介されるとき、またインターネットで肉を販売しているページを見たとき、その肉について「A5ランク」と、でかでかと表示されることがある。それを目にして「すごい!」や「美味しそう!」と感じる人も多いのではないか。では、そのうちの何割の人が、このアルファベットと数字の組み合わせの意味を知っているのか。

この等級は、日本食肉格付協会により定められているもので、国産牛を対象とした取引規格を表している。まずA~Cが存在するアルファベットは歩留等級を指し、これは一頭の牛から取れる肉の量を表している。つまり、A5ランクであろうがC5ランクであろうが、味の良しあしには違いがないわけだ。

住吉店主「味には関係がないですが、牛一頭から取れる量が多いということは、原価が安くなります。お店による部分ではありますが、原価が下がるということは、お客様に安く提供できると言えますね」

そして数字の1~5で区分される肉質等級にこそ、肉の味に密接に関わってくる。これは、「脂肪交雑」「肉の色沢」「肉の締まり及びきめ」「脂肪の色沢と質」の4項目からなり、その項目のすべてで5と判断されれば5等級に、すべての項目で4等級以上であるが1項目でも5等級に満たなければ4等級というように区分される。

住吉店主「当店では、霜降り肉の提供をやめたつもりはないんです。弊店の先々代が存命だった30年前であれば、今の適サシ肉ぐらいのものを霜降りと呼んでいました。でも時代が進む中で、競うように脂の量が多いものが良しとされていきました。そして脂が多い肉が5等級の条件であり、それが今では無条件に美味しいとされているんですね」

住吉店主によると、現在、世間で霜降りと呼ばれる肉は、サシの割合が50%から、多いもので70%にもなるのだという。一方ちんやでは、サシの割合が30%程度のものを適サシ肉と呼んで提供している。ちなみに適サシ肉とは、ちんやによる造語であり、特許庁に商標を出願中だ。

住吉店主「同業の料理屋さんや食肉業者さんと話していると、“脂がたくさんのった肉=美味しいわけではない”といった意見が出るんです。でも、食肉業界全体の流れとしてサシの多い肉が良しとされている中で、それを大きな声ではなかなか言えない。そもそも、何をもって美味しい肉とするのかは難しいですよね。ですから繰り返しになるのですが、5等級の肉が美味しくないというつもりはまったくなく、割り下との相性など、ちんやのすき焼きに合う肉の条件の一つが、4等級だった。そしてお客様には、ちんやならではの美味しいすき焼きを食べてもらいたい。ただそれだけのことで、メディアなどでこれほど話題になるようなことを宣言したつもりはないんです (笑)」

肉の等級について知らなければ、無条件でA5ランクの肉が最上級と考えていた人も多いのではないか。今回は牛肉の脂肪の“量”について言及したが、適サシ宣言には、脂肪の“質”についても条件が存在していて、実はそちらの方が重要だと住吉さんは言う。本特集の後編では、美味しい肉について、今回とはまた違った角度からうかがっていく。

※同特集の後編は5月19日(金)に公開予定です。

Information
ちんや
TEL:03-3841-0010
住所:東京都台東区浅草1-3-4
営業時間:[月、木、金曜]12:00~15:00、16:30~21:30
[水曜]16:30~21:30
[土曜]11:30~21:30
[日曜・祝日]11:30~21:00
http://www.chinya.co.jp/

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