「注意バイアス」が、無駄な買い物を誘発する仕組みとその対策
それは数日ごとに移り変わるのですが、いつも何かしらの商品が頭の中を巡っています。それは映画のときもあります。ボードゲームのときもあります。新しく発売されたガジェットのときもあります。本の場合もあります。そのときどきで気になるものは変わりますが、とにかく、いつも何かしらの商品で頭がいっぱいになっているのです。
この記事はThe Simple Dollarに投稿されたものです。
きっと、その商品に関する記事を読んだり、動画を見たりしたことで、気になりはじめるのだと思います。一度気になりだすと、1日中そのことばかり考えてしまいます。少しでも油断すると、その本、あるいはそのゲームが意識を占領しはじめます。気がつけば、あの本にはどんなことが書いてあるんだろう、あのゲームで遊ぶとどれぐらい楽しいのかな、と思いを巡らせているのです。
その商品について考えれば考えるほど、心が惹きつけられていきます。あれを買えばどれだけ便利になるか、どれだけ楽しくなるか、妄想は膨らむ一方です。あのガジェットがあれば、仕事の効率が劇的に向上するにちがいない…。あのゲームを買えば、ゲームサークルで大人気になり、何時間でも、何度でも飽きずに遊べるにちがいない。
時間が経つにつれて、心のなかでその商品のプラス面ばかりが大きくなり、マイナス面が見えなくなっていきます。そして、あちらこちらで、その商品や類似品を持っている人が目につくようになります。何を見ても、何をしていても、その商品が連想されます。次第に、やっぱりあれを買うべきなのだという確信が高まっていきます。
自分でも嫌になるほど、結局はその商品を買ってしまいます。しかし、自分でも嫌になるほど、その商品を手に入れても仕事や生活が劇的に変わったりはしません。
そして、何日か経てば、商品が変わるだけで、また同じことが繰り返されるのです。
あなたも身に覚えがある? これは「注意バイアス」と呼ばれるものの仕業です。Wikipediaは次のように説明しています。
注意バイアスとは、何かについて繰り返し考えることから、知覚が影響を受けることを言う。たとえば、自分が着ている服について考えれば考えるほど、他人が着ている服が気になるようになる。
何かについてプラス思考を繰り返すと、そのイメージはますますプラスのものとなり、いたるところで目につくようになります。その逆もあり、何かについてマイナスの思考を積み重ねると、そのイメージがますます悪いものとなり、いたるところで目につくようになります。
注意バイアスは、物を買いたい、所有したいという欲望だけに働くものではありません。政治的信念や、知的関心など、ほかのさまざまな領域でも起きてきます。
何かに注意を向け続けていると、そのものに対する知覚が変わっていきます。注意を向けた部分(興味があったり、欲しいと思っているなら、たいていはプラスな部分)が、際限なく膨らんでしまうのです。
この現象は、誰かを好きになったり、素敵だなと思ったときにも、よく起こります。相手のプラス面だけに目を向け続けた結果、頭の中で、非現実的なほど素晴らしい人間にしてしまうのです。
私の趣味であるボードゲームから、1つの事例を紹介します。たとえば、ネットで、面白そうなボードゲームについて書かれている記事を読んだとします。すると、頭の中に、ゲームサークルの仲間とそのゲームで遊んでいる映像が浮かびます。その記事が遊んでいるゲームを絶賛してたとしたら、あなたはかなりプラスなイメージを抱くことになるでしょう。そして、ことあるごとに、そのゲームのことが頭に浮かぶようになり、そのゲームで遊んでいる場面を何度となくイメージするようになります。そしていつしか、このゲームを買えばサークルや家族の間で大いに盛り上がるはずだ、社交にもなるし、楽しい思いをたくさんさせてくれるはずだ、と信じ込むようになります。そうした状況に自覚がなければ、ほぼ間違いなく、あなたはそのゲームを買ってしまいます。そして、たいていは、期待した効果が表れないことを知ることになるのです。
これが注意バイアスがもたらす問題であり、この現象はあなたが思うよりずっと頻繁に起きています。
もし、自分がこうした問題に巻き込まれているとわかったら、注意バイアスと戦うことをお勧めします。何かに強い興味を抱くこと自体には、何ら問題はありません。ただ、その強い興味が、大金を費やすことにつながるとしたら、話は別です。自分が注意バイアスの影響を受けていないか、慎重にチェックする必要があります。以下に、そのやり方を紹介します。
その商品にあまり関心がない人で、信頼できる人に相談する
もしあなたが、何らかの商品を買うべきだと自分に言い聞かせ、額に汗して稼いだお金をつぎ込もうとしているのなら、一度立ち止まって、信頼できる知人に相談してみましょう。質問が誘導尋問にならないように気をつけながら、相手の意見を仰いでください。あなたが買おうとしている商品や、やろうとしていることをどう思うか、率直な考えを聞くようにします。
くれぐれも、心から信頼できる人を選んでください。もしその内容が自分の聞きたいこととは違っていても、その人のアドバイスを信じる必要があるからです。その人はあなたと違って注意バイアスのえじきになってはいないこと、注意バイアスがつくり出すゆがんだ世界の外側に立っていることを思い出してください。
難しいのは、あなたが関心を持っている領域にある程度の知識があり、なおかつ、あなたほど強い関心は抱いていない人を見つけることです。問題の商品に軽く興味を持っている人を探してください。まったく関心がない人では、あなたが何について話しているかわかってもらえないでしょう。逆に、その商品に強い関心を持っている人は、あなたと同じく注意バイアスの犠牲者になっている可能性があります。
私はよく、相談相手に妻を選びます。彼女は、私が情熱を持っていることに、少しばかりの関心と理解を持ってはいても、私ほど情熱を燃やしてはいないことが多いのです。ですので、妻はその商品を買うべきか否かを相談する相手としてはうってつけの人物と言えます。
あえて否定的なレビューを探す
私はいつも、ある商品がますます素晴らしく思えてきてしまうサイクルに陥ったときは、その商品について詳しく調べることにしています。とくに、ネガティブなレビューや、批判を意識的に探します。
マイナス面は? ほかにもっといい選択肢がないか? この商品が一定基準に達していないポイントはどこ?
こうした調査を何度かやってみるうちに、ネガティブなレビューを読むことで、歪められた世界から抜け出せることがわかってきました。ネガティブなレビューを読むと、その商品について地に足をついた見方ができるようになり、大金を投じるのは良い考えではないと思えるようになります。
30日間待ってみる
このメソッドには、商品を買う前に30日間待つことで、別のことに関心が移るだけの時間を稼ごうという狙いがあります。そしてたいていは、その通りになります。
私の経験でも、何らかの商品が気になっていても、それが続くのはせいぜい1週間か2週間くらいのもので、実際に行動を起こさなければ、次第に関心が薄れていき、別のことに興味が移ることがよくありました。いろいろな対策を打っていることに加え、無意識下でも自分がその商品に過剰に注意を奪われていることに気づいて、はっと目が覚めるように冷静になるときが訪れるのだと思います。
30日が経過すると、その商品に「NO」と言うことがとても容易になります。ポジティブな面を過大評価することもなくなり、その商品が自分の生活にもたらす影響を現実的な目で評価できるようになります。
時間は、注意バイアスに抗う最も効果的な武器の1つです。本当に価値があるものなら、時間をおいてもその価値が色褪せることはありません。一時的に、評価が膨れ上がっているだけなら、時間をおくことでその膨らみはしぼんでいきます。
ほかに興味があることを見つける
何らかの商品が気になっているときは、たいてい、ある特定の分野ばかりに意識が向いていることを示しています。たとえば、あるボードゲームが必要以上に気になっているとしたら、良かれ悪しかれ、最近のあなたが、ボードゲームという分野に意識を強く惹きつけられていることを意味します。
私もみなさんと同じく、趣味に関してバランスの取れた生活を送りたいと思っています。ですので、注意バイアスが前面に出てきたと気づいたら、しばらく、ほかのことに注意を向けるようにします。
たとえば、ハイキングに出かけます。あるいは、ボードゲームのルールブックを読むかわりに、本を読むようにします。とにかく、あなたを買い物を強制しようとしている分野以外のことなら、なにをしてもOKです。
ほとんどの場合、こうして意識的に別の分野に関心を向けることで、注意バイアスはおとなしくなっていきます。あれほど注意を独占していた商品も、意識の玉座から下ろせば、魔力は消え、本来の姿へと戻ります。つまり、買いたいという気持ちは急速にしぼんでいくのです。
現実を見る
実際、映画やゲーム、読書に、どれだけの時間を費やしていますか? どんなに好きなことでも、そのことに費やす時間は意外なほど少ないのが現実です。
その商品を買ったとして、実際、どれくらいの時間をあてられますか? これは、すでに持っているもので考えればわかります。私自身、せっかく買ったのに、たいして遊んでいないボードゲームをたくさん持っています。1度しか見ていない、あるいは1度も見ていないDVDがいくつもあります。積んであるだけの本が何冊もあります。
真実はこうです。買った商品すべてを楽しむだけの時間など、私にはないのです。ですから、何かを買いたくなったときは、このことを自分によく言い聞かせるようにしています。自由に使える時間はそれほど多くはありません。新しい商品のために時間をつくることは簡単ではないのです。
機会費用を考える
「機会費用」とは単純に、何かに時間やお金を費やせば、同じ時間やお金をほかのことには費やせなくなる、ということを表す概念です。
たとえば、新しいテレビを買うために1000ドルを使えば、そのお金をリタイア後の貯金や、借金の返済、あるいは、新しいブーツの購入費用にあてられなくなります。
注意バイアスのせいで購買欲求が駆り立てられてしまったら、その商品を買ったときの機会費用はどうなるかと考えるようにすると、買わなければという気持ちがしぼんでいくことがよくあります。今その商品を買えば、代わりに買えなくなるものが出て来るという事実に目を向けるのです。
こんど何かを買いたくなったら、ほかに何が買えなくなる?と考えてみてください。
買う以外の行動をとってみる
もう買うしかないと思い詰めている商品があっても、買う以外の行動をとってみることで、強迫観念から抜け出せることがよくあります。
たとえば、商品を購入する代わりに、Amazonの「ほしい物リスト」に入れておくこともできます。あるいは、その商品の写真を撮って友人に送り、いつかプレゼントしてくれるのを心待ちにするのもありです。日記にその商品のことをつらつらと書いてみるのもいいでしょう。
頭の中で考えているだけでなく、何らかの具体的なアクションを起こしてみると、膨らみすぎていた執着心を小さくすることができます。何でもいいので何かを「する」ことで、高まっていた緊張が和らぎます。それだけで気が済んでしまうこともよくあります。
個人的には、Amazonの「欲しい物リスト」戦略が好きです。買いたい商品を欲しい物リストに入れるだけで、かなりの確率で、その商品への興味がしぼんでいきます。
瞑想で思考をクリアにする
私がこれまで取り入れた習慣の中でベストなものは、ずばり「瞑想」です。毎日、少なくとも2回は瞑想をしています。瞑想は、雑念を振り払い、頭の中をクリアにし、目の前のタスクに集中するのに、信じられないくらい役立ちます。
瞑想に取り組むと、注意バイアスがかなり軽減されることが経験的にわかっています。瞑想を習慣にしていると、特定の物事に執着することがなくなります。特定の商品に注意が惹きつけたれたとしても、そのプラス面ばかりを過大評価することはなくなります。
瞑想に取り組むと、頭の中にある対象物のプラス面とマイナス面を冷静に評価できるようになります。さながら瞑想は、注意バイアスの罠に対する、無意識レベルで働く安全装置です。
最終考察
注意バイアスは誰にでも起こりうる現象です。私自身、対策を講じなければ、簡単に罠にはまってしまうでしょう。ですので、ここで紹介した戦略を駆使して、なんとか踏みとどまろうと日夜戦っています。特定の商品を過剰に評価したり、過度な期待を持たないように気をつけています。お金を失うからだけではありません。買った後にがっかりした気分を味わいたくないからでもあります。お金は消えた。代わりに手元に残った商品も、注意バイアスの夢から醒めてよく見れば、期待ハズレもいいところだった…。
もし自分がこのサイクルにはまっていると気づいたら、つまり、ある商品に注意を奪われ、絶対買うべきだと自分に言い聞かせ、買ったあとにがっかりする、のを繰り返しているなら、ここで紹介した戦略を試してみてください。浪費の最大の原因の1つ(すなわち注意バイアス)をやっつけるのに大いに役立つことでしょう。
健闘を祈ります!
Attentional Bias: Why You Talk Yourself Into Buying the Thing You’re Obsessing Over in Your Head… and How to Stop It | The Simple Dollar
Trent Hamm(原文/訳:伊藤貴之)
Image adapted from Mechanik and Merfin (Shutterstock).
元記事を読む
関連記事
【お金の教育】子どもに教えたい7つ |
【発想の転換】時間とお金の増やし方 |
お金持ちに学ぶ上手な相続 |
- ブーストマガジンをフォローする
- ブーストマガジンをフォローするFollow @_BoostMagazine_