誰もが実践しているけれど、ほとんど役に立たない「細菌を避ける方法」
あなたは、誰かが咳をしたときに息を止めたことがありませんか? あるいは、トイレの水を流すレバーを足で押そうとしたことがありませんか? このような行動の中には、正しいやり方で実行すれば、役に立つものもあるかもしれませんが、多くの場合、これらは不必要なものであり、ほとんどが妄想に基づくものです。今回は、日常生活で細菌を避ける方法について、真相を明らかにします。
誰かが咳やくしゃみをしたときに息を止める
あなたは病院の待合室にいます。すると子供が、周りを気にする様子もなく、くしゃみをして鼻水を空気中に飛ばし始めました。これに対して、あなたは「空気がきれいになる」まで口を閉じ、息を止めます。あなたのこの行動は、待合室にいる人々に向けて噴出された、不快なものを避ける上で役に立つのでしょうか? 答えはズバリ、ノーです。コマンチ郡記念病院で正看護師を務めるMeagan Garibay氏(看護学士)によると、空気中を漂う鼻水や唾液の飛沫を避けられるほど十分に長く息を止めることは不可能だそうです。
せいぜい、近づいてきた飛沫が、息が苦しくなって最初に吸った空気と一緒に体内に吸い込まれるのに十分な長さしか、息を止められません。オヤオヤですね。とは言うものの、Garibay氏によると、もし息を止めながら急いでその場を立ち去ることができるのであれば、いくらかは役に立つかもしれないということです。もちろん、そんなことをしたら、木の実をいっぱい持って逃げ出すシマリスみたいに見えてしまいますので、実行するかしないかは、あなたにお任せします。布で鼻と口をふさえば、飛沫を吸い込むことを防げるかもしれませんが、この戦法が功を奏するには、しばらくその状態でいなければならないでしょう。また、もしその布がきれいでなければ、別の細菌を顔に塗りつけることになってしまいます。さらに、確かに不快な状況ではありますが、おそらく、そもそも息を止める必要はないだろう、とGaribay氏は説明しています。
別の側面から言うと、このようなものに対して、人間の体には鼻毛などの自己防衛のメカニズムが備わっています。鼻毛は(うまくいけば)体内に入る前の細菌を捕まえる第一フィルターとして機能します。肺にも同じような自己防衛のメカニズムが備わっています。細菌に感染するほとんどのケースは、飛沫を吸い込むことによるものではありません(例外はありますが、一般的な日常生活においては、このようにして細菌感染が起こることはまずないでしょう)。
例外というのは、もちろん、あなたの免疫系が大抵の人よりも弱い場合です。そのような場合、病気の人たちと同席することがわかっているときには、マスクを着用するなどの保護策を講じたほうがいいでしょう。
便座シートを使う、足でトイレの水を流す、腰を浮かせて用を足す
公衆トイレは、ほとんどの人がもっとも汚らわしい細菌を連想する場所のひとつです。人間の排泄物を大量に処理する場所は、どこも悪夢のような細菌の王国に決まっている、ですよね? ほとんどの人の場合は、一体何人の人が座ったのかもわからないような便座にじかに腰をおろすなんて、考えただけでペラペラの紙でできた便座シートに手が伸びてしまいます。
しかし、Garibay氏が言うように、便座シートは気休めのためにトイレに置かれているものであり、腰を浮かせたまま用を足しても、落ち着かない思いをするだけです。病気の引き金となる体の部位(口や目、鼻、手など)は、あなたが便器におしりをのせる場所の近くにはないはずです。たとえ便座が細菌だらけでも、あなたの皮膚と免疫系の基本的な防御能力が、そのほとんどを面倒見てくれます。ヘルペスや肝炎、そのほかの重い感染症についてはどうでしょう? Garibay氏の解説です。
ヘルペスの場合、感染するには、現在病気を発症している患者が患部を便座じゅうにこすりつけ、そのあと、ほかの人がヘルペスに「感染」しやすい体の部位を便座じゅうにこすりつけることが必要です。そのような場合でも、ヘルペスに感染する前に、永続性の低い別の病気に感染する可能性のほうが高いのです。ヘルペスは通常、血液感染(あるいは体液感染)する病気です。ですから、便座を介してヘルペスに感染する唯一のケースは、患者が便座の上に出血した直後に、皮膚が傷ついた部分を接触させる状態でその便座に座る場合です。ほとんどの人は血まみれの便座になんて座らないでしょう。特に皮膚が傷ついているときには。
肝炎には排泄物を介して感染するタイプ(A型肝炎)もありますが、一般的には肝炎ウイルスに汚染された食べものや水を摂取することに起因します。トイレで本当に心配なのは、おしりではなく、手に付着する細菌です。そして、Garibay氏が指摘するように、手が便座の近くに行くことは普通ないでしょう。便座シートを取り付けない限りは。ただし、便座に触れるような傷口が体のどこかにある場合は、話が違ってきます。そのような場合は、必ず便座シートを使うか、何らかの方法で腰を浮かせたまま用を足してください。それはそれとして、これに加えて、包帯などで傷口をふさぐなどの処置をしてください。たとえズボンでいくらか保護されている感覚はあっても。
トイレを流すことに関して、レバーを動かすのに足を使う必要を感じている人がいるかもしれません。自動水洗トイレの登場によって、これはあまり大きな問題ではなくなってきましたが、旧式の薄汚れたトイレには、そのようなものは望むべくもありません。足を使えば、確かに、普通に流した場合に手に付着する細菌から逃れることになります。ただし、そのあとに何が起こるのかを考える必要があります。何人もの人たちがトイレのレバーに触って水を流し、そのあとトイレのドアノブを触ります。つまり、ドアのノブを触るのは、トイレのレバーに触るのと同じことなのです。ですから、普通にトイレを流してもかまわないでしょう。また、足を使う場合、トイレのレバーに付着していた細菌が何であれ、それが今度は靴に付着します。その靴で自宅に帰ることになるかもしれないのです。
結局のところ、たまたま便座に触ろうが、トイレのレバーに触ろうが、トイレのドアノブに触ろうが、トイレに行ったあとに手を洗えば、これらはどれも大した問題ではないのです。Garibay氏もこの点を口を酸っぱくして強調し、便座から感染する可能性がある細菌で、手を洗って落とせないようなものは何も思い浮かばない、と言っています。実際、便器自体よりもトイレのドアノブのほうが恐れるべきものは多いのです。せっかく手を洗ったあとに、ほかの人たちがベタベタの手を洗わずに触った(ゾッとしますね)ドアノブを使わなければならないこともあるでしょう。本能でペーパータオルに手を伸ばし、それをバリアとして使用する人は、正しい判断です。すぐに捨てられるものなら何でも、蛇口を閉めたり、ドアを開けたりするのにうってつけです。こうすることで、少しでも長く、手をきれいな状態に保てるでしょう。でも、ハンカチなどの捨てずに身に着けているものは良くありません。少しの間はハンカチで手を守れるかもしれませんが、ハンカチをポケットに突っ込むやいなや、付着した細菌はあなたの手や顔にたどり着くチャンスをうかがい始めます。
手の甲を使う
あなたの手は、細菌が目や耳、鼻、口などの危険地帯への経路を見つける最初の入口です。ですから、手の別の部分を使って、その危険を避けようとする人たちもいます。たとえば、筆者の場合は、指の代わりに手の甲で横断歩道のボタンを押します。筆者は、これに効果があるのかないのかわからないまま、何年も前からこうしてきました。そんなわけで、Garibay氏に尋ねてみました。すると、手を使うことに関しては、常にリスクが伴うというのです。
横断歩道のボタンを手の甲で押すのは実際に効果があるのか、という質問ですね? 答えは、イエスでもありノーでもあります。確かに、手のひらで押すよりはましです。けれども、それよりさらに良いのは、肘で押すことです。心配なのは、細菌が顔に付着することです。手は、たとえそれが甲でも、1日に何度も顔に触れます。習慣になっているため、それを意識することはありません(顔にかかった髪を払ったり、かゆいところを掻いたり、目や口、鼻などの周りをこすったりなど)。それに対して肘は、普通、顔に近づくことさえありません。
これは、手の代わりに肘の内側にくしゃみをするように言われるのと同じ理由です。この場合、細菌の移動する方向は逆ですが。手にくしゃみをすると、ほかの何かの表面に触ったり、誰かと握手をしたりするたびに細菌を移すことになります。それに対して、あなたの肘を触ってくる人は、あなた自身を含めて、ほとんどいません。ですから、このほうがずっと安全なのです。最近の研究によると、人から人に直接移動する細菌の量は、接触する面の総面積と、接触している時間に関係するそうです。基本的に、長い握手は一瞬のグータッチよりも多くの細菌を共有させることになります。しかし、Garibay氏は、どのようなあいさつの仕方を選ぶのかにかかわらず、手をきれいな状態に保つことの重要性を強調しています。それにグータッチは、仕事の場では使えません。ですから、手を除菌するもの常に手元に置いておいたほうがいいでしょう。
人前で手袋や手術用マスクを着用する
細菌を避ける場合に一番気になるのは「手」です。ですから、手袋の着用はシンプルな回避策だと思われるかもしれません。それに、公共の交通機関を利用している場合には、手袋はことさら良い考えであるように思えるかもしれません。ポールや手すり、つり革などを頻繁につかみますからね。残念ながら手袋は、あなたが体液(血液や嘔吐物、大便、小便など)と直接触れるときにしか、あまり役に立ちません。
Garibay氏が説明するには、手袋は細菌との接触を短時間しか防いでくれないそうです。手袋を脱ぐとすぐに、細菌に対する防護は失われます。また、手袋を脱ぐときには、手袋の外側に触るかもしれません。最後に防寒用や運転用の手袋をいつ洗ったか、あなたは覚えていますか? それに、手袋をはめたまま、うっかり顔に触ることも考えられます。あるいは手袋をはめたまま携帯電話を握り、あとでその携帯電話に素手で触ることがあるかもしれません(もしくは電話をかけるときに、汚れた手袋とケータイ電話の両方を顔のところに持ってくるかもしれません)。手が冷たいのでなければ、手を洗ったほうがいいでしょう。
一方、手術用のマスクには、手袋よりもほんの少しメリットがあります。手術用のマスクは重度の免疫不全を抱えている人にはとても役立ちますし、内科、小児科医のDaniel Weiswasser氏が呼吸器系ウイルス感染(風邪や気管支炎、インフルエンザなど)の原因になると説明する、飛沫を遮断することもできます。
しかし、私たちの大半にとっては、病気の人との直接接触を避けるだけで、安全を保つには十分です。人間の体には、他人と空気を共有することで拾ってしまう細菌を撃退するための、十分な防御機能が組み込まれています。たとえ、飛行機の中に数時間閉じ込められている場合でも、です。本当に危険なのは、誰かの唾液や鼻水、あるいはそれらが付着した折り畳みトレーや肘掛けなどに触れて、その手で顔のどこか(目や鼻、耳、口など)を触ることです。
心の平和を得るために手袋やマスクを絶対に着用しなければならない場合には、使い捨てのものを使用するのが良い、とWeiswasser氏は述べています。しかし、それでも、これはかなり極端な行為で、ごく一部の人たちを除けば必要ない、とWeiswasser氏は解説します。しかし、手術用のマスクは、あなたが病気の場合には非常に役立つものです。多くの国々では、ほかの人たちにうつさないようにするため、自分が病気のときには手術用のマスクを着用することが習慣になっています。
細菌を完全に避けることはできない(でも、それでもかまわない)
結論を言うと、完全に細菌を避けることはほとんど無理です。しかし、それでまったく問題ありません。生まれた瞬間から死ぬ瞬間まで、24時間365日、あなたは細菌に囲まれています。Garibay氏は、すべての細菌が悪い細菌とは限らず(多くは非病原性)、悪い細菌も大半は人間に害を与える機会をほとんど持たない点を指摘しています。
人間は1日の間に、自分では気づきさえしないほど、非常に多くの細菌にさらされています。しかし、あなたが健康であれば、免疫系が凄腕を発揮して、侵入者を防いでくれます。体の中に入っても、細菌はひっそりと退場させられるのです。
細菌の撃退は、あなたの体にとって通常業務にすぎません。むしろ、細菌との接触を制限してしまうのは、メリットよりデメリットのほうが多いのです。あなたが病気になるのは、免疫系が未知の侵入者と遭遇したとき、そして免疫系が弱っていて、すぐに侵入者を根絶できないときです。衛生仮説によると、細菌との接触を通して免疫系を適切に調整、強化することは可能であり、そうすることで、病気になる頻度は下がるとされています。ただし、Weiswasser氏は、この仮説が少し物議をかもしていることを認めています。それでも、もしあなたが完璧に健康であるなら、「キレイすぎる」と言うことは考えものかもしれません。
Garibay氏によれば、意図的に体を細菌にさらすべきではないかもしれないが、健康的で機能的な免疫系をつくるための、普通の接触は必要だそうです。筋肉と同じように、免疫系も使わなければ強くならないのです。抗菌製品の過剰使用が原因でどんどん現れている、新しいアレルギーなどの過敏症に対して、この点は特に重要です。
本当に焦点を絞るべき戦略
細菌を防いで健康でいることは、実はとても簡単です。そう見えるかもしれませんが、世界は細菌だらけの地雷原ではありません。病気を寄せ付けないために、危ういバランスが必要な綱渡りのような真似を、常にしている必要などありません。Weiswasser氏とGaribay氏からのアドバイスをいくつかご紹介しましょう。きっと大いにあなたの役に立ってくれるはずです。
・手を洗う:食べる前、料理する前、顔を触る前に手を洗うことは、病気の原因になる細菌を避けるために、あなたにできる最善策です。
・手が洗えないときには除菌剤を使う:手の除菌剤を正しく使うポイントは、忘れずにそれを使うこと、とGaribay氏は提言しています。除菌剤を手元に置いていても、食事の前や鼻をかんだあとに使うのを忘れては、意味がありません。使用するときは、乾くまで(最低15~20秒間)手をこすり合わせ、手のひらと甲の表面全体および指の間に除菌剤を広げます。ただし、手が見るからに汚れていたり、油でベタベタしていたりするときには、悪いものを取り除くために手を十分に洗う必要があります。
・顔に触るのを避ける:これを実行するのは容易ではありませんが(筆者もいつも悪戦苦闘しています)、顔やその周りの弱い穴の部分(目と耳、鼻、口)に触る回数が減れば減るほど、体は良い状態になります。ほかの人の顔を触る場合についても同様です。
・病気の人たちに近づかない:一緒に暮らしていると実行するのは難しいかもしれませんが、これは理にかなった話です。病気の人の周りにいる時間が減れば減るほど、病気をもらう確率も下がるのです。これはあなたが病気の場合についても同様です! 体調が悪いときには会社に行ったり、人前に出たりしないようにしましょう。自分がいかにうまく病気に対処できるかを証明するためだけに、病原菌をばらまく必要はありません。
・基本に集中する:Weiswasser氏は、免疫系を丈夫で健康に保つために、十分な睡眠をとること、正しい食事をとること、そして運動することの重要性を強調しています。
こんなところでしょうか。あとは、あなたの体の自然免疫が処理してくれるはずです。最後になりましたが、Weiswasser医師は、自分や家族の予防接種に関する最新情報を常に入手すること、そして生後6カ月以上の子供も大人も、毎年秋にインフルエンザの予防接種を受けることを勧めています。
Patrick Allan(原文/訳:阪本博希、吉武稔夫/ガリレオ)
Photo by PIXTA.
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