【ドローンキーパーソンインタビューVol.2前編】 IoT×映像=ドローン!?トライポッドワークス佐々木社長のチャレンジ

2016.8.29 12:05 更新

読了時間:14分16秒

ドローンキーパーソンインタビュー

私はドローン操縦士の講師をさせていただいているが、受講生の中には自社の新規事業にドローンを活用したいという要望を多く聞く。ただ、具体的にドローンをどのように活用するかイメージしている受講生は多くないように思える。そこには、ドローンに事業としての可能性は感じているものの、どのように自社事業の中で活用していいかわからない…という状況があるようだ。そこで今回は、ドローンが持つ可能性を自分なりに意味付け、自社事業の中にもうまく取り入れつつある企業の取り組みをご紹介したい。

今回インタビューをさせていただいたのは佐々木賢一社長。経営するトライポッドワークス株式会社(宮城県仙台市)は、情報セキュリティ関連サービスを提供し、ユーザー間ファイル転送アプライアンス市場でのシェアNo.1企業だ。
(※2013年度2014年度 ITR Market View :ファイル共有・転送/コンテンツ管理市場 2015より)

クラウドストレージGIGAPOD アプライアンス版

ドローンキーパーソンインタビュー

佐々木社長は先日仙台市で開催された日本最大級のドローンレース開催のきっかけを作った人物でもあり、観光・企業PR動画の制作や自治体向けのドローン体験会の開催など、精力的にドローンを活用している。

一見すると情報セキュリティとドローンという組み合わせの接点が見えにくく、カメラが大好きな佐々木社長が趣味の延長でやっているようにも見えるのだが、そこには明確な意図と仕組みがある。ドローンをどのように、また、どのような意図・経緯で活用しているのか直接聞いてみた。

【田口】初めてお会いしてからいろいろな場面でご一緒させていただきましたが、まだ本業のお話を聞いたことがありませんでした(笑)。改めて、トライポッドワークスのお仕事を教えていただけますか?

田口さんには、こんな動画しか見せてないですもんね(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=I4mOO9wWM8U

弊社の事業の柱は2つあって、ひとつは情報セキュリティのプロダクト開発です。オンラインストレージ、メールセキュリティ、UTMなどを海外のパートナーと開発し、国内の市場に展開しています。この事業の商圏は極端に首都圏が中心で、7割が首都圏、2割が中部、1割が関西…という感じです。

もうひとつは、2年前から取り組んでいる映像解析サービスの事業です。この事業でターゲットとしているのは広いフィールドで人手不足の産業。IPカメラを使って業務に役立つ映像情報を提供するもので、土木建設、農業、介護といったようなお客さんがすごく多いですね。情報セキュリティと逆で、地方のお客さんがすごく多い。農業とか土木って街中よりも地方のほうがありますからね。

【田口】画像解析の事業もされているのですね。なぜ情報セキュリティから画像解析へ事業を拡大されたのでしょう?

大学と研究開発をしている部門が元々あります。よく大企業の研究所などが、大学に眠っている将来的にビジネスの種になりそうな研究を探していて、産学で共同研究を行っているケースがあります。でも、大学にあるのって論文とか数式。一方で、企業側は何らかのプロトタイプを作りたいと考える。そのときに、誰かがアルゴリズムを読み解いてプログラミングをしなきゃならないので、その役割をトライポッドワークスでやっています。

【田口】それはおもしろそうなプロジェクトですね。例えばどんなことをされましたか?

今ではスマートフォンにも当たり前のように生体認証が搭載されていますが、掌紋を使った個人認証システムの研究を携帯キャリアと研究したり、ドライブレコーダーを使ったヒヤリハットの検出を自動車メーカーと研究したりしました。スマホによる掌紋認証は、専用機器と違ってまっすぐ掌紋を読み取らせることは難しいし、環境の光に影響されてERRORになりやすい。そこで、いったん撮った画像を補正してから元の登録画像とマッチングする…みたいな「位相限定相関法」というアルゴリズムがあって、それの実用化を研究していました。

そのような流れで画像解析系の話がすごく多くなってきて、映像処理・動画の解析処理といったところのノウハウがだいぶ溜まりました。そこで、2年前に共同開発は一度やめて、我々のノウハウで事業を始めたのが今の映像解析サービスの事業です。

【田口】なるほど!情報セキュリティに画像・映像解析を取り入れよう…という視点ですね。しかも、そのノウハウを産学協同プロジェクトから学んだという。

そして、新しい事業としては「IoT」。IoTというとどうしてもセンサーがイメージされるのですが、結局のところセンシングデータよりも、映像(視覚)データのほうが実はフィールド業務をしている人たちにとっては非常に有効だな…と思っているんですよ。
なので、弊社が取り組むのは「映像を基軸としたIoT事業」です。

【田口】具体的にはどんなサービス・技術を提供しているのですか?

現場をリアルタイムに見られることと、映像情報を知財化することの2つです。いま、監視カメラというと防犯目的がほとんどですよね。せっかく映像を撮っているのに泥棒が入った時にだけ見るのではもったいないよね…と思っていまして。視覚情報っていうのは、人にとって非常に強く、わかりやすい、そして誤解のない情報なので、それを業務に活かしませんか?という提案です。

【田口】業務での活用というと?

フィールドが広くて人手不足の産業は多くの課題を抱えています。特に、定期的に巡回して今どうなっているの?…っていう「点検や見守り」に費やす時間や労力が非常に大きいですね。土木や建築はメンテナンス業務に課題が多いですし、農業も介護も確認や見回りのための時間がすごく多い。それで何かをしなくてはならない状況であれば行った意味はあるのですけど、何ともなかったね…ということの方が多く、それはある意味行かなくても何らかの手段で見えてさえいればそれで終わりだったはずです。広範囲に事業をしている農家などですと、ハウスは点在しているし、水田はクルマで10分程行かなくてはならない…となって、ぐるぐる一日中回っていることになる。ほかにも、気温が高いときはハウスの屋根を開けるんですけど、屋根を開ける操作はリモート操作の機械でできるのに本当に屋根が開いているかどうかわからないから結局現地へ操作しに行くことになる(苦笑)。

【田口】屋根を開けるのはリモートなのに点検に現地に行くわけですか!(苦笑)

人間、見えていないものをなかなか信用することができませんし、それでもし、機械が故障していて開いていなかったら、それはそれでたいへんなことになってしまうわけです。そういうのって、手元の端末で見ることができていれば実際に行かなくて済むわけですよね。なので、スマホのアプリで現場の状況を確認できるということはすごく大切なことなのです。

これをさらに応用すると…これは工事現場のカメラです。この映像の分解したコマを活用するとタイムラプスも簡単に作れますこれは導入した土木会社側は安全管理・工程管理ができるというメリット、そして最近は公共工事の部分で杭打ち偽装などがあったので品質を担保するためにプロセスを「見える化」したいというニーズもあって。結局報告書だと、断面断面の結果でしかないので、それをどう実現したのか…というところがわからないんですよね。そこがわからないということは、品質を担保できていないということにもなる。タイムラプスで工程が全部見えれば偽装のしようもない。

※建築現場のタイムラプス動画

【田口】へぇ!これはすごい。映像好きじゃないとこういう発想はできないですね(笑)

これを見ると工事の手順がすぐにわかります。タイムラプスは時間を俯瞰的に見るツールとして、工程を「見える化」するのにとても有効な手段だと思っています。

他にはこんなものもあります。植物は昼間に光合成をして、夜に成長をしますよね。赤外線映像をタイムラプス化、動きに色を付けて強調すると、農作物の育成状況が見える化できます。農家の方は、これで病害の可能性や設備の不具合に当たりを付けることができるわけです。

【田口】カメラはセンサー付きの特別なものを使っているのですか?

カメラは極端な話、なんでも良いです。撮影した動画を解析する方が主なので。大雑把に何をしているかというと、動画を構成する1コマ1コマを解析して、今のコマと前のコマで何が違うか…というところを見ています。違うものがあれば、それは「動くもの」ということですね。なので、センサーは使っていません。ただ、ポイントは背景が動かないということ。直前のコマとの差分を動いているものとして認識させる技術です。

【田口】なるほど!映像解析ってそんな仕組みで解析しているのですね。でも、まだドローンが絡むところがよくわらないのですが…苦笑

今は固定のIPカメラで映像を取得していますが、カメラが動くと何ができるのかな…と考えてみると、当然広範囲にセンシングできるということになりますよね。今はここに注目しています。ところが困ったことがあるのが、カメラが動くと背景も動いちゃうんですよ。そうすると、今説明した技術で映像解析ができない。

【田口】動くカメラで映像解析…ここでドローンが出てくるわけですね。でも技術的課題も多いと?

私にはドローンの師匠がいるのですが、2年前にたまたまその方からドローンはプログラミングができて、なおかつ自動で飛ばすこともできると詳しく聞く機会がありました。そこで、なるほど!と思ったわけです。自動で飛ばせるということは、同じルートを何度も飛べるんだな、と。そうなってくると、背景をいっしょに動かせば背景が動かないことと一緒のことになるはずです。

そして今研究しているのが、ドローンをプログラムで複数回同じルート・スピードで飛行をさせて映像解析をする技術です。現在の段階では、2回のフライト映像を50%ずつブレンドして重ねると、少し誤差が出て映像が2重に見えてしまいます。現在はまだここまで…ですね。

【田口】なるほど!ここでドローンの機能と映像解析の技術が繋がるわけですね。「複数回同じルート・スピードで飛行をさせる」技術で言えば、RTK(リアルタイムキネマティック)の技術を使うと有効かもしれません。あと、今はPR動画の制作もされていると思いますが、それにはどのような意味があるのでしょう?

ドローンを使ってプロモーション動画を撮影している中で、自分で操縦しているときと自動で飛ばしているときとだいたい半々ぐらいで撮影しているのですが、プロモーション動画の撮影はお客様の満足度が高い上に、こちらもこちらで非常に貴重なノウハウとデータが取得できます。遊びや練習で飛ばしている範疇では、広い公園などあくまで安全な場所で飛ばしますよね。一方、空撮を仕事として頼まれると、街中であったり、建物のすぐ側であったり、人がいるところで飛ばす…ということもあるので、安全に配慮し、関係各所に許可を得たたうえで普段飛ばせない場所を飛ばせますから、合法的に各種ノウハウの蓄積やデータ取りができます。それは今のスタイル、つまりプロモーション動画の撮影を事業化しつつ、将来的な研究開発を並行して行う上ですごく役立っていますね。

【田口】まさか、PR動画制作の中でそのようなことをしていらっしゃったとは!(笑)そういえば、佐々木さんが制作した動画の中で興味深いカットがいくつもありました。今思えばそこもテスト要素が入っていたのですね。

「IoT」にセンシングデータではなく「映像」を掛けあわせることで新たな価値を想像する。そして、その映像データ取得デバイスとしての可能性をドローンに見出している佐々木社長のチャレンジ。後編では、そのドローンを活用した具体的な取り組みやビジネスモデルについて深く聞いていく。

 

インタビュアー紹介
田口 厚

インタビュアー:田口厚株式会社 Dron é motion(ドローンエモーション)代表取締役
1998年〜IT教育関連NPOを⽴上 げ、年間60回以上の⼩学校現場 における「総合的な学習」の創 造的な学習⽀援や、美術館・科 学館等にてワークショップを開 催。その後Web制作会社勤務を 経て中⼩企業のWeb制作・コン サルティングを主事業に独⽴。
2016年5⽉株式会社Dron é motionを設⽴、IT・Web事業のノウハ ウを活かしながら空撮動画制作・活⽤⽀援を中⼼に、ドローンの 活⽤をテーマにした講習等の企画・ドローンスクール講師、Web メディア原稿執筆等を⾏う。「Drone Movie Contests 2016」 ファイナリスト。
http://www.dron-e-motion.co.jp/

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