15年間植物状態だった患者、新しい治療法によって最小限の意識が回復する
大きな一歩ではないでしょうか。
フランス国立科学研究センターの研究チームが、植物状態の患者に対して新しい治療法を行ない、最小限の意識を回復させることに成功しました。
「植物状態」とは、「反射運動を示すが要求に反応がない状態」を指します。「昏睡状態」とは違って、脳や体は「起きている」ものの、意識・認知力がない状態です。研究者たちの見解では「脳の損傷によって脳内の電気信号の伝わり方が変化してしまうのが原因」のようですが、今回の治療ではその原因に焦点があてられました。
New Scientistによれば、新しい治療法は”脳に直結している「迷走神経」に刺激を与えれば、変化してしまった神経接続の補正を補助ができるのではないか”という推測に基づいたもの。
研究チームは、フランス人の患者の迷走神経に電極を埋め込み、1カ月かけて電流を徐々に強くしていきました。すると、脳の活動が増加し、音楽に感情的な反応を示すようになり、さらには「にっこりして」という要求に頬を動かしたり、研究者たちが近づくと目を大きく開くなど、「最小意識状態」までの回復が見られたようです。これを「CRS-R(訳:改訂版昏睡状態回復指標)」で評価したところ、もともと「5」だったのが「10」になったとのこと(最大は23)。研究者たちは「我々の研究は、迷走神経の刺激が脳全体の活動を調整し、意識の不全を軽減する可能性を証明しました」と論文を締めくくっています。
米ダートマス大学で神経学と薬学の教授をしているJames L. Bernat氏は、CNNに「物議をかもす研究ですが、15年間も植物状態だった患者を実験の対象にしたのは素晴らしい。植物状態に陥って数カ月の患者で実験するのにくらべ、意識の回復が患者の自然治癒によるものではない可能性が高いからです」と伝えました。ただし、「植物状態は(患者によって)それぞれ違うので、迷走神経の刺激が全ての患者に効くかどうかは不明です」とのこと。
ニューヨーク大学で神経科学の教授をしているGyörgy Buzsaki氏も同様に「効果の大きさは脳の損傷の性質によります。この患者に対する効果も『私はジョー』と言ったり、『ここはどこ?』と聞けるほどではありません。目で物を追ったり、時折見せる表情以上の効果を保証しないほうがいいでしょう」という見方をしているものの、「迷走回路の刺激は簡単で、原理的には注射針を用いることで手術をせずとも可能です。他の患者で試すにしても脳を手術しないでいいのは画期的。過度な期待を寄せないように注意すべきですが、正しい方向に向けた、重大な進歩です」と述べました。
今後、「私が植物状態になったらこうして欲しい」という会話の内容が変わってくるかもしれませんね。
Image: © 2017 Elsevier Ltd. via Martina Corazzol/Current Biology
Source: New Scientist, Current Biology, CNN
Ryan F. Mandelbaum – Gizmodo US[原文]
(西谷茂リチャード)
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