グラフィックデザイナー金田さんが「ずっと持っていたい」逸品

2017.8.13 16:07 更新

読了時間:7分50秒

グラフィックデザイナー金田遼平さんが「10年後も手放さないモノ」

10年という月日が経つと、いま住んでいる部屋も、立場や環境も大きく変わってくる。ただ、たとえ環境が変わっても「これだけはずっと持っていたい」というモノが、ひとつはある。

そこで、さまざまなジャンルで活躍する方々に「10年後も手放さない」思い入れのあるモノを、31×34.5cmという限りのある『ROOMIE BOX』の中に詰め込んでもらった。なぜ、10年後も持っていると考えるのか。大切に持ち続けるモノについて語る姿から、その人の暮らしが徐々に見えてくる。

グラフィックデザイナー 金田遼平

1986年神奈川県小田原市生まれ。都内デザイン会社に所属しつつ、個人名義でも活動中。広告、音楽、エディトリアル、店舗、ファッション、プロダクト、映像などグラフィックデザイン全般の制作を行う。ROOMIEのロゴやカテゴリアイコン、連載タイトルのデザインも担当した。
http://kanedaryohei.com

10年後も手放さないモノ

ロンドン留学のきっかけのひとつ『ウィル・スウィーニー』のフィギュア

このフィギュアは、ウィル・スウィーニーというアーティストの作品です。クリエーターなどを取り上げるGASBOOKシリーズの中にある、ウィル・スウィーニーとSUSUMU MUKAIの合作の作品集を見て知りました。

見た瞬間「これはヤバい!」と。彼は宇宙や動物、食べ物などをモチーフとした奇妙なキャラクターを多く描いているのですが、僕の好きな音楽関連の仕事も多く手がけていることなどもあって一気にハマってしまいました。

でも全然販売していなくて……。外国の通販やオークションからなんとか探し出し、少しずつ集めました。

僕は2010年にロンドン留学したのですが、そのきっかけのひとつにもなっています。「Warp Records」というイギリスのレコードレーベルが好きだったことが大きな動機ですが、実はウィル・スウィーニーもSUSUMU MUKAIもロンドンを拠点に活動していたんですよね。

そんな経緯もあり、行くしかない! と思い留学しました。

しかも、その留学時にちょっとしたことがありまして。

友人とロンドンからパリへ遊びに行った時に、偶然、ウィル・スウィーニーの友人だという人に会ったんです。その上「ウィルが個展やっているよ」って教えてもらった場所がたまたま僕が当時住んでいた近所のギャラリーで、会いに行ったり……なんだか不思議な巡り合わせがありました。

僕のつくるグラフィックやデザインは、どちらかといえば削ぎ落されたものが多いのですが、その根っこの部分には、ウィル・スウィーニーの影響があると思っています。

スタート地点なのか、共通する何かしらのルールのようなものはあるなと。最近ではほとんど絵を描いていませんが、僕のイラストは彼の影響が大きいですね。

“宇宙服”の歴史をひもとく『Spacesuits』

ある時「宇宙が好きなんです」という話をしていたら、知人にこんな本があるよって教えてもらいました。宇宙に行けるかどうかもわからない時代から、宇宙服を開発する過程を記録した本です。

宇宙好きというのは大前提ですが、一生懸命モノづくりをする姿、未知へ挑んでいく姿勢にグッときました。人間が行ける場所なのかも分からないし、そもそも宇宙服が必要かどうかも分からない頃の話ですからね。

「一番最初にフグを食べた人」のような話ですよね。行ったことがないわけですから、“真空状態”といったことも、全部想像、謎だらけなわけで。

最初の方は「ほぼ布じゃん!」みたいなつくりになっていて(笑)。蜂を駆除する時の恰好みたいな宇宙服から、だんだんそれっぽくなってきて。なぜか、宇宙服で野球しているページも。

眺めているだけでも飽きないし、男のロマンみたいなものに溢れていますよね。

せっかく行っても室内から出られなかったり、景色しか見えないような状況では魅力は薄れますが、やっぱりこの本を読んでいると、一度でいいから宇宙へ行ってみたいと思いますね。

私服とかで、ラフに行けるようになったらいいなぁ(笑)。

『ka na ta』のジャケット

こちらは、友人の加藤哲朗くんがやっているブランド「ka na ta」のジャケットです。7年くらい前に、「ka na ta」の服の中で初めて買ったものです。

友人の展示ということもあって、最初は軽い気持ちで展示会へ行ったんですが、実際試着してみたら今まで経験したことのないような着心地で「これは……買うしかないな」と、その場で即オーダーしました。

このジャケットはアップデートしながら今もつくられていて、現在の型はディテールもすごく進化しているのですが。このジャケットの初期衝動のような思い入れは色褪せないですね。

以来、毎回展示会の度に大量に「ka na ta」が増えています(笑)。

「ka na ta」は“服”ではなく、“水”を作っている、と言うんですよね。身体そのものを包み込むような、身体そのもののような……。

彼らの考える「究極的にその身体に“ちょうど”=XM(エクストラミディアム)」というサイジングの概念も、洋服ではあるけどファッションではない何か、身体のためにものづくりをしている姿勢が見て取れます。

お店の住所も公開していないし、デザイナーも仙人みたいだし(笑)、「洋服のブランド」とは一言ではいえないようなブランド。ファッションショーを演劇でやったり、小説を作りその中でコレクションを発表したりと、毎回およそ考えつかないような試みをしています。

意図的に表立った活動はあまりしていないので、まだ知っている人は多くはないブランドですが、知った人は離れられなくなる。そんなブランドです。

グラフィックデザイナー 金田遼平さんの10年後

一直線にここを目指してきたわけではなく、自分が一番楽しいことをやっていた延長でいつの間にかこの仕事をしていたので、こんな感じでいるんじゃないでしょうか。

例えば何年後かに突然「メキシコでサーフィンを始める」ようなことになったとしても、おそらくその時自分が一番これだと思ったことを選んでそうなっていると思うんですよね。そんなふうに自分の感覚を基準にするという軸は、ずっと変わらないと思っています。

とはいえ、子供の頃から好きなモノが一緒なので、いきなり真逆の方向へ……なんてことはなさそうですけど。楽しんでいられたら良いですね。

Photographed by Yutaro Yamaguchi

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