悲劇 ジャイアンのいる職場

2016.8.17 08:05 更新

読了時間:9分23秒

他人事じゃないかも。組織を滅ぼす「傲慢症候群」とは?

オレ様化する人たち あなたの隣の傲慢症候群

※出典:Lifehacker

オレ様化する人たち あなたの隣の傲慢症候群』(片田珠美著、朝日新聞出版)の著者は、精神科医として臨床に携わり、犯罪心理や心の病の構造を分析している人物。精神分析的な視点で、社会問題にも積極的に目を向けているのだといいます。そのような立場に基づいて本書でクローズアップしているのが、どんな組織にも少なからず存在する「傲慢」な人たち。

傲慢な人は、「過去の栄光」をよすがにして、現在の自分を過大評価していることが多い。そのため、目の前の現実をきちんと認識できず、現実否認に陥ることもある。そうなると一層、「過去の栄光」を持ち出さずにはいられず、悪循環に陥りやすい。(「まえがき」より)

こうした傲慢さは、個人だけではなく組織にもしばしば蔓延すると著者は指摘します。そしてその結果、周囲の反感や敵意を買い、自滅していくことも。本書では、そのような事態を避けるため、彼らの傾向を客観的に見つめ、私たちの自衛策を提案しているわけです。

ところで著者は、傲慢な人を「傲慢症候群」と位置づけ、その症状を『自滅する企業—-エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病』(ジャグディシュ・N・シース著、スカイライトコンサルティング訳、英治出版)から引用しています。

「話を聞かない」
顧客、従業員、投資家、消費者団体、行政のいうことを聞かなくなる。外の世界に耳を傾けない。人の話を無視する、笑い飛ばす。すべて知っていることだと思い込んでいる。

「自らを誇示する」
豪華な社員旅行、快適なオフィス空間、気前のいい役得、贅沢な保養所。会社の専用ジェット機や美術品のコレクションを見せびらかしたがる。(後略)

「人を威嚇する」
従業員、顧客、投資家を脅すよう経営陣に奨励し、報酬まで出す。アナリストが会社に不利なレポートを出してきたら、その上司にかけ合って、叱責か懲戒処分を与えることを考える。(後略)

「横暴になる」
ガバナンスなどうちには関係ない、誰も我々の事業を規制はおろか問題視さえできないと思っているので、ルールや手順を守らない。(後略)

「同意ばかり求める」
コンサルタントやアドバイザーを招いて、現状の正当性を確認し、自尊心をあおる。その一方で、供給業者や顧客だけでなく従業員でさえも、批判的な者は切り捨てる。広告代理店や調査会社の提案する戦略が気に入らない場合は、別の業者に切り替える。

「自社開発主義(自前主義)症候群」
現実否認の会社と同様、「自社開発でない」ものはよいわけがないと信じている。
(20ページより)

こうした傾向を備えた傲慢な人たちと過ごす以上は、自衛が必要。そこで、「傲慢症候群」の対処法と予防法について触れた第5章「あなた自身がつぶされないために」に焦点を当て、いくつかのポイントを引き出してみたいと思います。

まず気づく

まず大切なのは、さまざまな弊害の原因になっているのが傲慢症候群だと気づくこと。なぜなら、その症状が実際に表れていても、周囲がなかなか気づかないことがあるから。そしてそれは、主として2つの理由によるものだといいます。

まずひとつは、過去にそれなりの実績があり、功労者として認められている場合は、周囲から大目に見られやすく、許容されやすいということ。「あれだけ実績を上げた人なのだから、間違ったことをいうはずがない」と周囲も思い込み、目が曇ってしまうのです。しかもその人に肩書きがついていた場合、目に余るような振る舞いがあったとしても、周囲は諦めるしかないわけです。

また実績がなかったとしても、傲慢人間は自己演出に長けていることが多いため、どうしても惑わされやすいのだとか。なお自己演出の手段としては、「なんらかの権威の利用」「幻想的願望充足」「威嚇」の3つがしばしば用いられるそうです。

なんらかの権威の利用とは虎の威を借りることで、よくあるのは、有名人と知り合いだとか、偉い人と親しいなどと吹聴することによって、自分の価値を高めようとする方法。信頼性に欠けるやり方ですが、それでも惑わされる人が多いのだと著者は指摘します。

幻想的願望充足は、「ブランド大学だったらいいのに」といった願望があたかも現実であるかのように思い込むこと。厄介なことに彼らは、自らの願望が実現されているとか、やがて実現されるはずだと本当に思っていることが多いのだとか。本人は誇張しているつもりなどなく、そうなるはずだと本気で信じ込んでいるため、周囲も惑わされやすいということ。

そして威嚇は、特に操作支配欲求の強い傲慢人間がしばしば用いる手段。なんらかの権威を引き合いに出すことも多く、偉い人や強い人と自身の関係を強調して、それとなく脅しをかけるのです。

こうした特徴を備えた傲慢人間が近くにいる場合、周囲の人に求められるべきものは、「気づくこと」だと著者はいいます。気がつかなければ対処のしようがないので、なによりもまず気づくことが優先されるべきだという考え方です。(168ページより)

風通しをよくする

先にご紹介した『自滅する企業』のなかで、著者のシースは「傲慢症」の治療法として次の5つを挙げているそうです。

1. 管理職に定期的に新しい挑戦の機会を与える
2. 従来とは違う後継者選びを実行する
3. 人材プールを多様化する
4. 外部の考え方を取り入れる
5. リーダーを変える
(188ページより)

これらはいずれも、風通しをよくすることにほからないといいます。なぜなら、外に向かって窓が開いていない、場合によってはそもそも窓自体がない閉鎖空間ほど、傲慢症候群が蔓延しやすいから。いわば、傲慢症候群の治療法はひとえに風通しをよくすることで、これは予防法にもつながるのだそうです。

自分の所属する組織が傲慢症候群のせいで自滅しないようにするには、できるだけ外部の風を入れ、風通しをよくするしかないということ。なお、そのために社外取締役を導入する企業も増えてはいるものの、必ずしもそれがうまく機能して、傲慢症候群の予防に役立っているとはいえないと著者は指摘します。

考えられる理由は2点で、まずは、これまでずっとあるやり方でうまくいっていたのに、「時代が変わったのだから、違うやり方が今後は必要だ」と納得させるのは非常に難しいということ。だからこそ、過去の成功体験が大きければ大きいほど、人も組織もなかなか脱皮できず、結果的に自滅していきやすいというのです。

また、保身意識が働くことも一因。特に既得権益が大きいほど、それを守ろうとするのが人間というもの。だから、問題の萌芽が見えたとか、問題が実際に起こった場合でも、誰もが責任をとることを避けようとするというのです。責任を追及されたくない経営陣からすれば当然の防御策かもしれませんが、そんなことを続けていては傲慢症候群を予防することも治療することも不可能。

だからこそ著者は、「これが現状なのだ」と受け入れることが大切なのだと主張します。そしてそのうえで、個人が傲慢症候群に侵されないように気をつけるしかないとも。いってみれば傲慢症候群は必ずしも他人事ではなく、自分自身の問題でもあるということです。そこで、自分自身が傲慢症候群に陥らないために気をつけるべきポイントを、著者は次のようにまとめています。

・自分は絶対正しいと思っていないか
・自分が一番よくわかっていると思っていないか
・周囲が全員バカに見えることはないか
・成功したときほど要注意
・許せないという思いにとらわれていないか
・風通しが悪くなっていないか
(第6章「気が付けば予備軍かもしれない」より抜粋)


上司や経営者に蔓延する傲慢症候群は、ひいては自分自身の問題でもある。そんな本質を、本書は気づかせてくれます。組織のよりよいあり方を考えなおしてみるために、読んでおくべき内容だといえそうです。
(印南敦史)

元記事を読む

Lifehacker

 

 

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