「残業だらけチーム」と「残業しないチーム」はどこが違う? チームとして短時間で結果を出す方法
『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣 』(石川和男著、明日香出版社)の著者は、建設会社の総務経理担当部長。しかしその一方、大学講師、時間管理コンサルタント、セミナー講師、税理士としての顔も持っているのだそうです。建設会社は、月曜日から金曜日までの朝8時30分から夕方5時まで。その他の仕事は平日の夜や土曜にしているというのです。しかも、プライベートの時間もしっかり楽しんでいるのだとか。
当然のことながら、そのためにはメインである建設会社の仕事を定時で終わらせる必要があるでしょう。残業してしまうと、他の仕事にしわ寄せがきて、遊ぶ時間どころか睡眠時間もなくなってしまうからです。とはいえ著者には、リーダーとしての立場があります。自分ひとりだけだというのならまだしも、チーム全体が夕方5時までに仕事を終わらせることなど可能なのでしょうか?
この問いに対して、著者は可能だと断言しています。どの仕事も効率的に片づけ、探し物を減らし、チーム全体をかしかし、「誰がなんの仕事をしているのか」を共有する。そして、会議や打ち合わせのムダを徹底的に省く。そうすることで、チームの残業を減らしているというのです。
“プレミアムフライデーを実行すれば、金曜の早い時間から旅行に出かけて家族でゆっくり過ごすこともできます、その代わり効率的に働き、今より短い時間で成果を出さなくてはいけません。
これからは、量より質、時間より成果の時代になるのです。(「はじめに」より)”
そこで本書では、「残業しないチーム」をつくるために必要な50項目の習慣を明らかにしているわけです。きょうは第3章「仕事の進め方」に焦点を当て、いくつかのポイントを引き出してみましょう。
残業しないチームは難しい仕事を簡単に変え、残業だらけチームは難しい仕事をそのままやる
著者は出社すると、その日やるべき仕事はもちろん、私用までも、すべてをノートに書き出すのだそうです。その理由は、頭の中にあるすべての事柄を吐き出して、目の前にある仕事に集中したいから。たとえハガキを投函するというような簡単な仕事でも、ノートに書いてしまうと、頭の片隅に覚えておくよりも集中できるというのです。
「やることノート」と呼んでいるという、こうしたノートの最大のメリットは、「やるべきことがすべて書いてある」という安心感。そして、やることが終わるたびに赤ペンで丸をつけていく達成感は、仕事が楽しくなる要因にもなるのだそうです。
とはいえ、好きな仕事ややりやすい仕事ばかりを優先していると、必ずトラブルが起きるもの。簡単な仕事を次々と終わらせられれば達成感もありますが、思考力を要する重たい仕事が残っているという焦燥感も増していくというわけです。
だからこそ大切なのは、まず優先順位の高い仕事を終わらせ、そののちに優先順位の低い仕事をやるようにすること。しかし現実問題として、優先順位の高い仕事は難易度が高かったり、面倒だったり膨大な量だったりするもの。そのため、やる気を奮い立たせるのが大変でもあります。そこで著者が勧めているのは、優先順位の高い仕事を細分化すること。たとえば決算書を作成しなければならない場合なら、「1.売上の合計、2.管理費のチェック、3.給与集計、4.給与チェック、5.法定福利費の確認……」など、行うことを細分化して記入する。そうすることで、大変な仕事も簡単な作業に変わっていくという発想です。
細分化のポイントは項目をできるだけ細かく分けること。細かくできればできるだけ、簡単になるわけです。またチームのメンバーも「やることノート」を取り入れれば、チーム全体が先送りすることなく優先順位の高い仕事に取り組むことができるようになり、所要時間も少なく終わるそうです。(72ページより)
残業しないチームは前倒し、残業だらけチームは後回し
初めて取り組む仕事や、長期間を要する仕事、クリエイティブな能力を求められる仕事などは、ついつい後回しにしてしまいがち。気乗りしたいため、慣れているルーティンワークや簡単な仕事を優先してしまうということです。しかし後回しにすることで残業が増える理由として、次のようなことが考えられるそうです。
“急いでやるので、ミスややりなおしが多発する“
納期ギリギリになると無理なスピードでやらなくてはならなくなるため、ミスが発生しやすくなるもの。当然、やりなおしが発生するため、時間が余計にかかることになります。しかも後回しにすればするほど記憶が薄れるので、完成が遅くなることに。そこで、どんな仕事でも、発生した時点ですぐに取りかかることが大切。
“新たな工程に時間をとられてしまう”
締め切り間際で仕事を進めると、新たに必要な工程があることに途中で気づくことがあります。その工程を行うために、予期せぬ残業が発生してしまうかもしれないのです。そうならないためにも、前倒しで最初に少しでも手をつけて作業のシミュレーションをしておくべき。そうすれば、全体のスケジュールをつかめるわけです。
“別の仕事が舞い込んでしまう可能性がある”
月末締め切りの重要な仕事を最後の一週間で行おうと計画しているようなときに限って、他の重要な仕事が重なったりするもの。そうした事態を想定し、重要な仕事ほど前倒しで進め、予備日を設けて対応することが必要。なお残業だらけチームにならないために重要なのは、新しい仕事が発生した際、メンバーが前倒しで動けるかの確認をとること。具体的には、次のようにするといいそうです。
“1.案件が発生したら、すぐに必要な工程を全部洗い出し、予定表を作成させる”
工程をできるだけ細かく書き出すということ。経験の浅い部下や仕事を後回しにしがちな部下の場合、チームでさまざまな可能性を考えながら工程を書いていくことが求められるそうです。
“2.予備時間を確保するように徹底させる”
メンバーの中には、予定をぎっちり詰め込みすぎてしまう人もいるでしょう。そのような人には、毎日1時間は呼びの時間を確保するように伝えるなどの指導を徹底すべき。毎週作業予定表を作成し、チーム全体が見える場所に張り出すなど、ルール化するといいそうです。(80ページより)
残業しないチームはまず考え、残業だらけチームはまず行動する
できるだけ早く行動する、つまり行動スピードを速めることは決して悪いことではないでしょう。しかし、急いでやってしまうとミスが出やすくなるのもまた事実。さらにはミスがクレームにつながり、その処理のために多くの時間を取られることもあるかもしれません。しかも、やりなおしはストレスを生み、自分の心を乱すもの。イライラすると仕事が進まなくなって当然。負の感情が、さらなる時間のムダ使いを生むという悪循環に陥りがちだということです。
しかし著者は「決断力」とは、「正しい判断を速くできる能力」だと考えているのだそうです。行動スピードだけを上げたとしても、それ自体が間違っていた場合、やりなおしが生じたり、損失が発生する可能性が出てきます。
正しい判断ができたとしても、行動スピードが遅いためライバルに先を越されたり、納期に間に合わなくなってしまうというようなことも起こりうるわけです。だからこそ正しい判断を行い、行動のスピードを速めることが大切。それができて初めて、「決断力がある」といえるという考え方です。
“正しい決断を行うためには、「紙に書き出してみる」という方法があります。
判断が難しい場合、頭の中だけで考えていると混乱し、問題の所在が整理できず、決断が鈍る傾向にあります。そこで、その決断をしたことによるメリットとデメリットを、できるだけ多く紙に書き出していくのです。(85ページより)”
建設業に携わる著者の場合でいえば、いままで行ったことのない種類の工事を依頼される場合があるのだそうです。そんなときは、「その仕事を受注するとどうなるか?」「新規の事業に投入する技術職員は何人必要か?」「待機職員が減るメリット、次の工事を行うのに技術者が足りなくなるデメリットはなにか?」など、あらゆる角度からメリットとデメリットを書き出し、整理していくというのです。
頭の中で考えるのではなく、アウトプットすることで問題の所在を整理することができ、より正しい決断ができるようになるということ。そればかりか、紙に書き出せば、それまで自分だけで抱え込んでいた問題をチームで共有することも可能。チームのメンバーからさまざまな意見を聞くことで、選択の幅が広がるわけです。
残業しないチームは、まず正しい決断をしてから行動スピードを上げていくもの。難しい判断をするときは、行動に移す前に紙に書き出し、メリット、デメリットをなどを整理することが大切。さらには問題をチームで共有することで、決断の精度とスピードを上げていくわけです。
それに対して、行動スピードを上げることだけを重視するのが残業だらけチーム。たしかにスピードも重要ですが、間違えた方向に加速すると、結果的にはその時間がムダになり、やりなおすことでさらに時間がかかってしまうということです。(84ページより)
残業しないチームは真似し、残業だらけチームはオリジナルで考える
書類をつくるときの方法について考えてみましょう。著者によれば、残業だらけチームは書類をゼロベースからつくるのだそうです。しかし、ここには意識すべきポイントが。そもそも企画書や提案書などは、提出先が違っていたとしても中身はほとんど変わらないもの。にもかかわらずゼロから考えるのだとしたら、それは時間のムダだというわけです。
“「オーダーメイド」という言葉があります。スーツを作るのに既存のものだと体型が合わない。そのような人向けに、オリジナルのサイズで作るのが「オーダーメイド」であり、究極の顧客志向といえます。
しかし、この「オーダーメイド」は仕事においても必要でしょうか?
言い方を変えると、すべての相手に「オーダーメイド」は必要でしょうか?
答えは否だと思います。
そもそも企画書や提案書の作成の段階では、たたき台で充分です。たたき台を作ってからお客様の傾向に合わせていく。過去に作成された企画書を真似たもので充分です。(97ページより)
残業しないチームは、過去に諸先輩がつくっていた評判のいい企画書や提案書などを踏襲し、新しいものをつくっているのだとか。他にも、お客様からアポをとるメールの文面、謝罪文、礼状など、マニュアル化できそうなものはすべて踏襲しているのだそうです。謝罪文や霊場などの文面は、ゼロベースで考えると時間がかかってしまうからです。(96ページより)”
「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」を比較しながら話が進められていくので、とても理解しやすい内容。チームの無駄を省いていくためには、必読の1冊といえそうです。
印南敦史
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