反応が薄い部下にはどう接するべき? 「部下への言葉がけ」のコツ
マーケティングやロジカルシンキング(論理的な問題解決手法)をおもなテーマとして研修・セミナー講師の仕事を手がけて30年になるというのは、『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』の著者。階層別の教育研修を行う機会も多く、管理職向けのリーダーシップ研修やマネジメント研修などを数多く担当してきたのだそうです。
そうした経験のなかで実感しているのは、「上司」を取り巻く環境が大きく変わってきたことなのだとか。部下が上司の指示に忠実に従っていれば業務が無難に進んでいった時代は終わり、現在の組織内の主役は明らかに部下だというのです。上司は過去の知識や経験が役立たないことを感じ、厳しい態度で指導すれば痛い目にあうことも予想できている。だから、どう部下と接すればよいのか悩む人が増えているということ。
そしてそんな状況下において求められているのは、「どんな場面で、どんな言葉を発すればよいかをたくさん知っている人」だともいいます。これからの時代は、部下の心の奥にあるやる気や貢献欲求を引き出し、思い切って一歩前に踏み出させるワンフレーズが重要だという考え方です。
“この力強いフレーズを生み出す基となるのが、アメリカのスポーツ界で生まれた「ペップトーク」です。Pepには「元気づける」「励ます」という意味がありますが、ペップトークとは「短時間で相手のモチベーションをアップし、成果を生み出させるショートスピーチ」のことです。
現在では、ペップトークはスポーツ界に限らず、ビジネス分野や教育分野、あるいは家庭内の親子関係にも広く応用され成果が出ています。本書では、「部下にやる気が見られないとき」「年上の部下に接するとき」など、場面ごとに有効なワンフレーズのペップトークを紹介していきます。
(「はじめに」より)”
きょうは部下のタイプ別に声のかけかたを紹介した第1章「部下にどう声をかけたらいいのかわからない」のなかから、いくつかを抜き出してみたいと思います。
反応が薄く、自分を信頼していなさそうな部下
「部下にどう声をかけていいのかわからない」という人にその理由を聞くと、「なにか言っても部下の反応が薄いから」という答えが目立つのだといいます。仕事上の指示を出しても、「はい、がんばります」「ありがとうございます」など上司が期待するような返事が少なく、淡々としているケースが増えているというのです。しかし部下の立場の方から話を聞くと、反応が薄い2つの理由が目立つのだそうです。
1つ目は、「話が長いことや指示の内容がわかりにくい」こと。そして2つ目は、「やる気が失せる言葉をかけられる」というもの。前者はテクニカルなものですが、後者は信頼関係に関わるものであるだけに、より深刻だと著者はいいます。なぜ深刻かといえば、多くの上司が「自分の部下のやる気を損なうような言葉(ネガティブ・ワード)を発していることに気づいていないから。部下のことを気遣って発するちょっとした言葉が、逆に魚の小骨のようにチクチクと相手の気持ちを突いて落ち込ませ、仕事の生産性を落としてしまうというのです。
たとえば部下が意気揚々と出かける際、「事故るなよ」「こないだみたいな失敗をするなよ」というように否定形で言葉をかけたり、過去の悪いイメージをわざわざ思い起こさせるような表現をすべきではないということ。こういう場合は「安全運転でね」「今度は○○の部分を強調するとうまくいくよ」など、意識してポジティブな言葉がけをすることが大切だといいます。
なお難しそうに思えるかもしれませんが、無意識のうちに出てくるネガティブな表現をポジティブな表現に修正することは、必ず誰にでもできるそうです。ポイントは、「相手に自分の気持ちをストレートに伝えたい。そして、相手の成長につなげたい」という目的意識を持つこと。(34ページより)
“信頼されていないかもしれない部下への失敗しがちなひと言
「事故るなよ」
「こないだみたいな失敗をするなよ」
→失敗のイメージを抱かせてしまう
「どうするつもりだ?」
「ほんとに大丈夫か?」
→心配や不安をかきたてるだけ”
“信頼されていないかもしれない部下へのワンフレーズ
「安全運転でね」
「今度は○○の部分を強調するとうまくいくよ」
→成功のイメージを抱かせる
「成功する場面を頭に描いて、あとはベストを尽くそう」
→一緒にがんばろうというメッセージが伝わりやすい
(以上、41ページより)”
意見をなかなか言わない部下
意見を言わない部下は、なにを考えているのかわからないもの。しかしこのことを考えるにあたり、「大切なのは基本に立ち返ること」だと著者は記しています。意見を言わない部下は、積極的な姿勢になっていないといえますが、その理由として考えられるのは次の2つのパターン。
1つ目は、「言うべきことが見つからない」という単純な理由。そして2つ目は、「自分が発言したところで、受け入れてもらえないだろうし、なにも変わらないだろう」という自己否定から生まれる消極性。
「意見が浮かばない部下」については、「些細なことでもいいから言ってごらん」「意見がないってことは、考えてないことだよ」とアメとムチを使い分けた言葉がけをしても、部下は焦るばかり。大切なのは、主体を自分に置いて、自分の考えや行動についての感想を求めること。そうすれば、相手は頭の中を整理しやすくなるというわけです。
「いま、うちで開発中の商品ってさ、私は若者層だけじゃなくて、ある程度高い年齢層にもウケると思うんだけど、どう思う?」というように、上司が自分の意見に対する感想を求めることで、部下は意見を述べるきっかけと、考え方のヒントの両方をつかめるということです。
一方、「どうせ自分がなにを言っても変わらない」と思っている消極的な部下については、これまでに自分の行動や、仕事の結果に対してよい評価が得られず不満に思っていることが考えられるといいます。つまり部下は承認に飢えた状態であるため、もしも「行動」や「結果」に触れるのが難しいのであれば、「存在」への承認に着目すべき。
上司から「私の意見に対して、感想を言ってほしい」と告げられることは、「あなたの存在を大切に思っているよ」「決して否定したり無視しているわけではないよ」という暗黙のメッセージにつながるということ。表面的に「がんばったね」「がんばってるね」と言われるよりもプライドをくすぐられ、「このチャンスになにか発言して認められたい」「この上司は、これまでと少し違うぞ」とモチベーションをアップするきっかけになるのだそうです。(54ページより)
“意見の引き出し方がわからない部下への失敗しがちなひと言
「どんな些細なことでもいいから言って!」
「意見がないってことは、考えてないことだよ!」
→無理な要求や押しつけ、あるいは現場への責め”
“意見の引き出し方がわからない部下へのワンフレーズ
「私の意見に、どんな感想を持ったか教えて」
「なにか問題があったら、いつでも教えて」
→部下に考えるヒントや切り口を与える+部下の存在を承認する
(以上、61ページより)”
感情を出さない部下
感情を出さない部下について意識しておくべきは、「感情を出さないのはダメ」で、「表現豊かなのはOK」と紋切り型に決めつけないこと。社員や職員の個々人が力を発揮できるリソースフルな状態にすることが大切であり、必ずしも全員が感情を豊かに表現する必要はないということです。
感情を出さない人には2タイプあり、その1つ目は「そういうタイプの人」。性格が暗いわけでも、感性に乏しいわけでもなく、「そういうタイプ」だということ。2つ目は、なんらかの理由によって心を閉ざしているパターン。
しかし、どちらのパターンに対しても、「なに暗くしてるの。笑って笑って!」「もっと感情を表に出さないとダメだよ!」などと言うと逆効果。感情を出さないタイプの人にとって、それは性格を否定されたことになるわけです。そしてそれが“存在の否定”と感じられ、その後の人間関係が劣悪になる恐れがあるというのです。(62ページより)
“感情を出さない部下への失敗しがちなひと言
「なに暗くしてるの。笑って笑って!」
「もっと感情を表に出さないとダメだよー!」
→激励のつもりで、相手の“存在の否定”につながりかねない言葉がけ“
“感情を出さない部下へのワンフレーズ
「あまり表に出さないけど、心の底は熱いね!」
「みんなの知らないところで工夫してくれてるね。これからも期待してるよ!」
→寄り添っていることを心に響かせる言葉がけ
(以上、66ページより)”
他にも「仕事の頼み方」「やる気の出させ方」「ほめ方」「叱り方」と、さまざまなシチュエーションに応じた言葉がけのコツが紹介されています。
すぐ役立てられる実践的な内容なので、部下とのコミュニケーションに悩んでいる人は、ぜひ読んでおきたいところです。
印南敦史
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