決算書を簡単に読み解き、ビジネスに役立てる10の方法

2017.10.15 17:07 更新

読了時間:9分44秒

「決算は難しい」は思い込み? 素人が決算を読むために意識しておきたいこと

Photo: 印南敦史

難しそうで、専門知識が求められるようなイメージがあるだけに、「決算書」と聞いただけで抵抗を感じる方も少なくないと思います。あるいは、「自分の業務には関係ないから」と敬遠することだって考えられるでしょう。しかし『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(シバタナオキ著、日経BP社)の著者は、そんな人にこそ本書を読んでほしいのだそうです。元・楽天株式会社執行役員で、現在はSearchMan共同創業者という地位にある人物。

当時の楽天では、毎週月曜の朝、世界中の楽天社員が参加する全体集会が行われており、そのプログラムのなかに、常務以上の役員が持ち回りで「先週の業界トピックス」を開設するコーナーがあったのだそうです。つまり著者は、そのコーナーの「ネタ探し」と「台本づくり」を任されたというわけです。

しかし、そうなると新聞やインターネットメディアで報じられたニュースをなぞる程度では意味がありません。しかも役員は例外なく多忙であるため、一読しただけで「なにが大事なポイントなのか」がすぐわかる資料を作成する必要があったということ。

“そこで私が考えたのが、競合他社の決算発表やM&A(企業買収)情報をピックアップし、簡単な分析結果を添えて提出するやり方でした。

上場企業であれば、決算は毎四半期必ず公表されます。それに、楽天はECから金融、広告などさまざまな事業を運営しているので、競合他社は国内外にたくさんあります。ライバルの決算を分析して、そこから読み取ることのできるサービス動向や経営戦略を開設すれば、社員の日常業務にも役立つ情報をネタ切れせずに提供できると考えたわけです。(4ページより)”

こうして、本業の傍らでいろんな会社の決算を読むことが習慣になったということ。楽天をやめた現在も、仕事の空き時間やプライベートな時間を使って決算を読み続けているのだそうです。とはいえ普通に人にとって、決算を読むのはやはり難しそうではあります。そこで決算の読み方のコツを探るべく、本書の「会計の素人でも決算を上手に読むために10カ条」に注目してみたいと思います。まず最初に必要なのは、「決算は難しい」という思い込みを捨てることなのだといいます。

1. 他人の家庭の「家計簿」を覗くつもりで読む

決算は、いってみれば「会社の家計簿」だと著者は表現しています。そこで、まずは他人の家の家計簿を覗いて見るような軽い気持ちで、決算書を見てみればいいというのです。なお、決算書は大きく分けて次の3つ。

・ P&L(損益計算書)

・ BS(バランスシート/貸借対照表)

・ CFS(キャッシュフロー計算書)

(10ページより)

これを家計簿になぞらえるなら、毎月の収入と支出が書いてあるのがP&LとCFS。家や車などの資産や、ローンなどの負債について書いてあるのがBSなのだそうです。つまり、これらが「決算短信」や「決算説明会資料」としてまとまっていると思えばいいそうです。(10ページより)

2. 必要なのは四則演算のみ

財務・会計のプロを目指すわけではないのであれば、決算を読むために必要なのは四則計算だけ。つまり、中学生レベルの算数がわかれば、誰にでも読めるということです。(10ページより)

3. 決算短信ではなく、決算説明会資料から読む

上場取引所に提出する「決算短信」は、とても専門的で読みにくく、とにかく文字が多いのだとか。そこで著者は、「決算説明会資料」を読むことを進めています。決算説明会で配布される資料は、通常はパワーポイントなどで作成されており、いろんな立場の株主が読んでも理解できるように文字も少なめになっているというのです。パワーポイントはスマホやタブレット端末でも閲覧できるため、通勤電車内や、寝る前のベッドでも読めるというわけです。(10ページより)

4. 企業の「将来」を予測しようとする前に「過去」を正確に理解する

決算を読むとなると、「将来」のことばかりが気になるもの。しかし大切なのは「過去」だと著者はいいます。「過去」の情報を圧倒的な量で集め続けると、経営や各事業の行く末がぼんやりと読み取れるようになるというのがその理由。そして、ここで大事なのは、決算を読む「量」を増やすこと。そして、時系列で同じ会社の決算書を読み続けること。ある会社の四半期決算を1時間かけて分析するよりも、同じ時間で1年分の決算を流し読みするほうが、発見が多いというのです。

また、同じ企業の決算を時系列で流し読みしていると、ある四半期の決算説明会では開示されていなかった数字が出てきたり、逆に開示されていた数字が資料から消えていたり、という変化にも気づくようになるのだといいます。これらは決算を発表した企業が「強調したい数字」か「隠したい数字」であることが多いため、いずれにしても要注目ポイントだということです。(11ページより)

著者によればここからが「初級者編」で、ポイントは「ビジネスモデルごとに『方程式』を覚える」こと。

5. 各ビジネスの構造を数式で理解する

本書の各章の冒頭には、ビジネスモデルごとに異なる「押さえておきたい方程式」が掲載されています。著者が決算を読む際には、売上向上で重要になる指標を数式化しているというのです。財務・会計の専門家から見れば正しい読み方とは言えないものもあるかもしれないけれども、さまざまなビジネスの構造を手っ取り早く知るという意味では、役に立つ公式だという考え方です。(11ページより)

6. 各ビジネスの主要な数字を暗記する

ビジネスモデルごとに異なる「方程式」を把握したら、次にすべきはその数式を埋めるのに必要な数字がどれなのかを理解すること。たとえばサービスの「アクティブユーザー数」が重要な指標になるビジネスだとしたら、時系列でどう変化しているのかを四半期ごとにチェックして覚えてみることが大切だというのです。(12ページより)

ここからは中級編で、「因数分解しながら過去の決算と比較してみよう」がテーマ。

7. 徹底的な因数分解で「ユニットエコノミクス」を計算する

「方程式」を使うためには、「ユニットエコノミクス」と呼ばれる「顧客1人あたりの平均の経済性」を先に計算しなければならないケースがあるそうです。著者いわく、ユニットエコノミクスとは各企業のオリジナリティそのもの。これをどう業界の競合他社と比較することで、各社の強み・弱みや業界構造が見えてくるというわけです。(12ページより)

8. 成長率(対前年比/YoY)を必ず確認する

合わせて必要なのは、過去の決算を比較対象にして「成長率」を確認してみること。成長率は「対前年比」、英語表記だと「YoY」(Year over Year、あるいはYear on Year)を見ればわかるといいます。株式市場では成長率がすべてだと著者。なぜなら成長率は、各社の経営が「追い風状態にあるのか、向かい風なのか」を示す数字だから。(12ページより)

そして、「競合他社との『横比較』で違いをあぶり出す」がテーマとなったここからが上級者編。

9. 1社だけではなく、類似企業の決算も分析・比較する

特定の企業を一通り読み解けるようになったら、次にすべきは同業界の競合やビジネスモデルが似ている企業の決算も分析してみること。決算から業界や企業の「いま」を推し量るには、1社ぶんも決算だけを読んでもダメ。比較対象を定めることで違いが浮き彫りになり、はじめて意味のある知識が見出せるようになるということです。(13ページより)

10. 類似企業間の違いを説明できるようになる

たとえば同じような事業内容なのに、ある会社と競合他社で成長率が大きく異なっていたとします。そこで最後は、その原因がどこにあるのかと自分なりに調べてみることが大切。しかしその答えは、必ずしも決算資料に書いてあるとは限らないもの。どんな打ち手が違いを生んでいるのか、リリース情報や報道機関の取材記事なども参考にして推測してみるといいそうです。(13ページより)

このような基本をスタートラインとして、以後の章では「ECビジネスの決算」「Fin Techビジネスの決算」「広告ビジネスの決算」「個人課金ビジネスの決算」「携帯キャリアの決算」「企業買収(M&A)と決算」と、ビジネスモデルごとの決算について具体的な解説がなされています。つまり決算に関し、自分にとって必要な情報を確実に学ぶことができるわけです。著者が言うように、決算に縁がない人こそ読んでおくべきかもしれません。

Photo: 印南敦史

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