6週間夏休みを取っても成り立つスウェーデン企業の仕組み

2017.9.4 22:07 更新

読了時間:12分13秒

スウェーデンの会社員が6週間の夏休みを取っても企業が倒産しない理由

Image:BoikoY/Shutterstock.com

スウェーデンでは、6週間程度の夏休みをとることは特別ではありません。それにもかかわらずなぜ会社が倒産しないのか、日本から見ると不思議に思うこともあるでしょう。

この記事では、私の夏休みの取得状況とスウェーデンの休暇制度の話からスタートして、従業員がそれほどの夏休みをとっても「なぜスウェーデンの企業が倒産せずに機能するのか」のお話をしたいと思います。

私の今年の夏休みは6週間にしました。6月半ばに次女が誕生したので、そこからまずは2週間の産後休暇と、その後に4週間の有給休暇をつなげ、6月中旬から7月末までの6週間となりました。この6週間という休みの期間はスウェーデンでは特別長いわけではありません。

スウェーデンでは休暇は一週間単位で取るのが一般的。休みの長さは“〇連休”ではなく、“〇週間”で表現します。私の年間の有給休暇は6週間で、つまりは30日ということです。ですから、今年はあと2週間の有休が残っています。

スウェーデンでは、子供が生まれると父親に2週間の産後休暇が与えられます。これは産前でも取ることは可能です。また、子供が生まれるのと同時に、父母それぞれに240日ずつ、合計480日の育児休暇取得権利が発生します。所得のレベルによりますが、育児休暇中は社会保険より収入の8割程度が保障されます。

それに、片方の親がもう片方へ休暇日数を譲渡することも可能。でも、どちらかの親が必ず90日取らないとその90日は消滅してしまいます。これは国が男性の育児休暇取得を推進しているのが背景にあり、実際に私の周りのスウェーデン人男性の多くは90日以上の育児休暇を取得しています(下図参照)。

Image: 吉澤智哉

同僚を見ている限り、最も多いのは父親が母親へ120日を譲渡し、母親が約1年分の360日を先に取得するパターン。その後の約3カ月は父親が育児休暇を取得し、就学前学校(スウェーデンでは幼保一体)へ入学します。私もこのパターンとなるはずで、来年の夏ごろに3カ月の育児休暇を取得予定です。

このように有給休暇、産前産後休暇、育児休暇など、スウェーデンの会社員には諸々の休暇を取得する権利があり、当然のように行使されています。現に私の周りの同僚で有給休暇を取得しきれない人は存在しません。とはいえ、人によって会社との契約は様々なので、5週間の人もいれば6週間の人もいます。また、有給休暇ではありませんが、私の隣の人は会社と週4日勤務の契約を結んでいます。会社との合意さえ成立することが前提ですが、個々のライフスタイルに合わせて多様な働き方・休み方が実現できている社会だといえます。

スウェーデンの会社で働いていると、男女問わず同僚が長期間不在というケースにしょっちゅう出くわします。そして、それが当たり前のことと認知されているのが日本とは大きく異なるところです。不在だからといって欠席裁判のように仕事を押し付けられることはないですし、不在であったことを咎められることもまずありません。

長期間休んでも会社が機能するワケ

前置きが長くなりましたが、従業員が何週間も会社から離れても会社がなぜ倒産しないのか、まず理由の一つは従業員が同じタイミングで一斉に休みに入らない特徴にあります。下図は私の所属部署の夏休みの予定表です。

Image: 吉澤智哉

・JUNIが6月でAUGUSTIが8月。V22~V35というのは欧州では一般的な表記のカレンダーウィーク。1月最初の週が第一週でVecka 1(英: Week 1)となり、12月最後の週は52週となる。
・V23とV25の赤帯は祝日でNationaldagen (英: National day)とMidsommardagen (英: Mid summer day)=夏至
・Xが有給休暇でFLはFöraldraledig (英: Parental Leave)といい、育児休暇や産前産後休暇を意味する。
・Aさんは4歳と7歳子持ち、BさんCさんは20代、50代の独身、Eさんは1歳の子供がいて9月末まで育児休暇、Fさんは生後半年の子供、Gさんが11歳の双子を持つマネージャー。全員男性。
・弊社には工場が併設されており、V28~31の3週間は工場や社員食堂も閉鎖。つまり工場勤務の人たちは休みを自由に設定できない。

このように、各自がバラバラに夏休みをスタートさせます。マネージャーのGさんはけっこう大変です。みんなの休みの希望を聞いてから自分がいつ休めるかを探る感じです。したがって、全員がいなくなるのはV30の1週間のみで、それ以外の6~8月は誰かしら会社にいるという状態となります。

6~8月の夏休みシーズンは、当然ながら出社している限られた人材で仕事を回すこととなります。また、休みに入る前に暗黙のルールとして2つ大切なことがあります。

1. メールの自動返信は必ず設定する

各自内容は様々ですが、一般的なのは

「メールをありがとうございます。7月末まで夏休みなので緊急時は〇〇さんへ連絡をお願いするか私の携帯まで電話をください」

といったものです。これで社内外問わず、メールの差出人は次のアクションが取れます。私もこのような自動返信を設定しておきましたが、休暇中に一度も携帯が鳴ることはありませんでした。

2. 上司、代理人と休み前に話をしておく

言わずもがなですが、休みに入る前には引き継ぎをしておかないといけません。私の職場では、特に誰かから「引き継ぎをしなさい」などと指示されたり、マニュアルが存在したりするわけではありません。私の場合、どう考えても必要なプロセスだというものに関しては、1時間ほど上司と打ち合わせをしてエクセルで簡単なリストを作りました。とはいえ、やったことは案件に応じて特定の処理方法をお願いしたり、判断をゆだねたり、電話をもらうよう頼んだり、せいぜいこれぐらいです。会社や部署によっては他の社員のメールを閲覧できるようにし、休み中の従業員の仕事をカバーできるようになっているところもあるようです。

スマホ一台あれば、休み中でも会社のメールはどこにいても簡単にチェックできるわけで、引き継ぎもそこまで完璧にやる必要はないのかもしれません。人によっては休み中でも返信がありますし、私もそのようなタイプの人間です。でも、ほとんどの人が全くメールを見ないようです。

さて、いくら上記1、2の様なアクションを事前に取っておいても、残された人員で普段通り業務を回すのは難しいでしょう。ですが、人数が少なくて業務が進んでいないからといって残業をしたり、土日に出勤したり、家で仕事をすることはありません。ということは部署だけでなく、会社としての業務のスピードはガクっと落ちます。

つまり、スウェーデンの世の中全体で6~8月は社会の速度がガクっと落ちるのです。会社だけではありません。お役所に住民票を申請しても、普段は数日で届くのが数週間経っても届かなかったり、ビジネス街であれば、出社している社員が少ない=お客さんが減る=レストランのランチ営業は採算が合わないので、夜だけの営業になったりと、世の中が少しだけ不便になります。

ですが、ここに腹を立てても仕方がありません。自分が長期休暇を取得する自由と引き換えに、少しだけ世の中の不便さを受け入れるという暗黙の取引が成立しているように思えます。つまり、6~8月の間は、何か不都合があっても「あー、だって夏だしね」の一言で済んでしまうのです。

つまり、スウェーデン人がこれだけの長さの夏休みを取れるのは、世の中全体に相互理解があるから可能な話。いうなれば、普段通りのスピードを期待してはいけないのです。

とにかく、スウェーデン人の心の根底にあるのは、「人間は適度に休息をしないと効率よく働けない」ということ。当たり前の話ですが、彼らはこれを真正面から実践しています。ですから他人が休むことに腹を立てることはゼロです。

先日、会社にお腹が大きい妊婦さんが入社してきました。ほどなくして出産、そのまま産休でしばらくお休みです。彼女の場合、たまたま妊娠するタイミングと転職をしたい時期が重なっただけなのです。こういったことは人として生きている上で当然起こりうることなので、職場のみなさんも自然と受け入れています。

オフィスでは立って仕事をするなど、自分にとって快適なスタイルでできる自由さもあります。
Photo: 吉澤智哉

適度に休むことが心身ともに健康でいられ、仕事でパフォーマンスを発揮できるというのがスウェーデンでは常識となっており、その“適度”が6週間の夏休みということなのです。

私は自分を含めスウェーデン人が休み過ぎだとは思いません。365日から土日祝日と有給休暇を差し引いた稼働日は、私がホンダで研究開発業務をやっていた頃と比べてほとんど変わりません。数週間に渡る休みはありませんでしたが、日本のカレンダーは祝日がとんでもなく多く、3連休がしょっちゅうあります。

一方スウェーデンでは祝日がほとんどなく、その分有給休暇を夏にまとめて取っているだけなのです。しかし上述のとおり、育児休暇を小出しで取るなどするので、それらを加味すれば実際に出社する日はだいぶ少なくなくなります。でも小さな子を持つ親として、他の従業員より少しばかり多く休むのは当然のことと思います。

それではスウェーデンでは長い休暇中、実際の生活はどのようになるのでしょうか。それに関しては次回お伝えします。

吉澤智哉(よしざわ・ともや) | Blog | Facebook |

profile_yoshizawa
東京都出身ストックホルム在住。妻と4歳の長女、生後2カ月の次女と暮らす36歳。2016年3月より、スウェーデンの自動車部品メーカー Öhlins Racing ABにて研究開発業務に携わる。

12~14歳は米国オハイオ州で過ごす。日本大学理工学部機械工学科を卒業後、(株)本田技術研究所及び(株)ホンダレーシングにてオートバイの車体設計に9年間従事。娘の誕生をきっかけに、ワークライフバランス向上を目指し32歳でBMW Japanへ転職、品質エンジニアとして2年間勤めた後に更なる家族の幸せを求めスウェーデンへの移住を決意。

Image: Boiko Y / Shutterstock.com, 吉澤智哉

Photo: 吉澤智哉

吉澤智哉

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