“現実的な楽観主義者”であれ。「やり抜く人」が目標達成のために守っていることとは?
誰もが実現できるわけではない目標を実現できた人には、なぜそれが可能だったのでしょうか? この問いに対する「才能があったからだ」という答えには、科学的な裏づけが欠けている。そう主張するのは、『やり抜く人の9つの習慣 コロンビア大学の成功の科学』(ハイディ・グラント・ハルバーソン著、林田レジリ浩文訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者です。
“実際、これまでの多くの心理学の調査によっても、仕事や私生活で目標を達成した、いわゆる“成功者”と呼ばれる人たちには、共通する思考や行動のパターンがあることが明らかになっています。
つまり「才能が成功に導いた」のではなく、彼らは「ある種の思考や行動によって、自らを成功に導いている」のです。
本書では、こうした目標を達成できる人に共通する思考や行動を「9つの習慣」にまとめて紹介していきます。(「はじめに」より)”
では、その「9つの習慣」とは、いったいどのようなものなのでしょうか? そのなかから、いくつかをピックアップしてみることにしましょう。
目標に具体性を与える
目標は具体的にすべきだと著者はいいます。たとえば「やせたい」と思うのであれば、目標は「やせる」ではなく「5キロやせる」とするべきだということ。後者のほうが、求める成功の姿をはっきり見せてくれるわけで、つまり「自分が望んでいるものはなにか」を理解している人は、そこに到達するまでやり抜くことができるという考え方です。
また、具体的な目標を決めたら、「そのために必要な行動はなにか」を具体的にすることも大切。「いつまでに、なにをするか」を決めるわけです。目標が具体的でないから、ついつい「このくらいでいいや」などと自分を甘やかしたり、簡単に妥協してしまうことに。そこで、まずは「具体的かつ詳細に、自分が達成したいことを考え抜くべきだというのです。
そしてもうひとつ大切なのが、「私にとって成功とはなにか」と「成功への障害はなにか」の2つを繰り返し心の中で考えること。それは心理学では「メンタル・コントラスト」と呼ぶそうで、目標をつかむ強い心構えを持つために有効なのだとか。具体的な方法は次のとおりです。
“1. 目標を達成し、成功したときの「感情」をしっかりと味わう。
2. 心の中で、そのときに起きていることを明瞭にイメージする。
・周囲の様子はどうなっているでしょうか?
・どんな声が聞こえてくるでしょうか?
3 そこに至るまでの、障害を考える。
(15ページより)”
メンタル・コントラストを実践することで、「いま自分に足りないものはなんなのか」がはっきり自覚することが可能に。それによって、「望み」「願望」を手の届く「現実」にできるといいます。(10ページより)
目標達成への行動計画をつくる
目標達成のためにやるべき行動を着実に実行するためには、「いつなにをやるか」をあらかじめ予定に入れておくべき。たとえば「月曜日、水曜日、金曜日には出勤前に必ず30分運動する」というようにするわけです。
そして目標達成への行動を邪魔したり、集中力を妨げるものに対処するためには、心理学で効果を実証された「if-thenプランニング」という方法が効果的なのだそうです。「if-then」とは「もしこうなったら、こうする」という意味ですが、これがどんな目標を達成する場合にも役立つというのです。
つまり、ただ決めるのではなく、事前に「いつ」「なにを」やるかをはっきり決めておくことが重要。それだけで、実行できる確率は2倍から3倍も高くなるといいます。(22ページより)
目標までの距離を意識する
どんな目標であっても、達成するために欠かせないのは「どれだけ進歩したかをモニタリングする」こと。ただがむしゃらに努力するのではなく、日々どれだけ進歩したのかを確認する必要があるわけです。「どれだけ自分がうまくやれているのか」が分からなければ、行動を見直すこともできず、フィードバックがなければ、やる気を持続させることも困難だから。
また目標に向かって行動するときには、できるだけ多くフィードバックを得ることが大切だといいます。なぜならフィードバックによって、向上しているのか(あるいは、していないのか)がはっきりするから。そのためには、他人からフィードバックを受けるか、自分自身で進捗状況をモニタリングする必要があるわけです。
ところで目標に対するときには、対照的な視点があるのだそうです。「これまで思考(to-date thinking)」と、「これから思考(to-go thinking)」がそれ。まず「これまで思考」は、「どこまでやり遂げたのか」に視点を向ける思考スタイル。これは、「これまで進んだ距離に目を向けること」と言い換えることが可能。
対する「これから思考」とは、「あとどれだけやらなければいけないのか」に視点を向ける思考スタイル。つまり「目標までの距離に目を向けること」と言い換えられることになります。
著者によれば、人は誰でも「これまで思考」と「これから思考」を行ったり来たりしているのだといいます。どちらも目標達成のためには同じように大切な考え方だと思われがちですが、注意が必要。それは、「これまで思考」が強くなると、モチベーションが下がる危険性があるということ。
人は「目標に対して自分はこれだけ進歩したのだ」ということに目を向けると、達成感を得ることができるもの。しかし「これまで思考」の強い人は、早い段階で達成感を持つため、早く気が緩んでしまうというのです。しかし逆に「これから思考」を重視して目標までの距離を測ると、モチベーションは維持されることに。さらには「これからやるべきこと」を意識することで、モチベーションを高めることもできるそうです。(33ページより)
現実的楽観主義者になる
目標に向かって努力をするとき、ポジティブに考えることはもちろん大切。しかし、目標達成を甘く考えてはいけないとも著者は主張しています。目標が価値あるものであればあるほど、時間、計画、汗、辛抱が必要になるから。
事実、「望むことは簡単にできる」「ほしいものは簡単に手に入る」と考えると、失敗の確率が高まるという研究があるのだそうです。そう考えたおかげで油断してしまい、必要な準備を怠ってしまうというのがその理由。
“多くの自己啓発書の著者が言うことは、驚くほどシンプルなメッセージにまとめることができます。
「成功を信じよ。そうすれば成功はあなたのものだ」——です。
私には、このメッセージには重大な問題があるように見えます。それに対する私の言葉もこんなシンプルなメッセージで表現できます。
「それって、完全な間違いですよ」
(45ページより)”
事実、「望めば手に入る」と“引き寄せ”に取り組んでも、目標達成には役立たず、それどころか目標達成を阻害する可能性すらあるとか。ただし、「引き寄せの法則」が役に立つ場合がひとつだけあるといいます。それは目標を達成したくないとき。つまり著者は、「引き寄せの法則」は「失敗の法則」だと主張するのです。
「目標は達成できる」と信じるのは、いうまでもなく大切。しかし、「目標は簡単に達成できる」と考えてはいけない。ここに注意すべきだという考え方。いいかえれば、「“非現実的な楽観主義者”になることなく、“現実的な楽観主義者”であれ」ということ。
著者によれば、「現実的な楽観主義者」とは、「成功を望み、それに相応しい努力をする人」。つまり詳細なプランを立て、正しい戦略を練り、成功をつかむまでへこたれず努力する人だということ。そういう人は、「目標を達成するには、相応の困難を切り抜けなければならない」と最初から思っているのだそうです。覚悟が決まっているからこそ、「自分には成功する力がある」と信じることができるわけです。
“「成功するのはたいへんだ」と思っている人は「最善の努力をしなければならない」と考えるので、大きな成功をつかむことができます。
彼らは惜しみなく努力し、問題が起きることを予見し、対処方法を計画し、いざ問題が起きたら粘り強くことに当たります。その結果、成功にたどり着くーーこれこそが事実です。(51ページより)”
「現実的な楽観主義者」になるためには、まず「自分の前に横たわる課題や困難から逃げず、しっかり見つけること」そして「課題や困難がどの程度のものなのかを検討すること」が重要。さらには成功をビジュアリゼーションするだけでなく、成功するまでのステップと取るべき行動をビジュアリゼーションすることに取り組むといい。著者はそう解説しています。(44ページより)
このように、著者の考え方は基本的に当たり前のことばかり。実行に移すことも、決して難しいことではないでしょう。しかし、だからこそ、ここで得た知識を実際の行動に落とし込むことが大切だということです。
印南敦史
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