大人たちの心を揺さぶるヒーロー アンパンマンが愛される理由
“おや、だれか おなかを
すかして しにそうに
なっている こえが きこえる。
すぐに たすけに いかなくちゃ。”
「それいけ!アンパンマン」(作・絵 やなせ・たかし フレーベル館)
ふっくら焼き上げたおいしいアンパンで、人を助けるヒーロー・アンパンマン。物語の中で伝えられる言葉には、生きることの意味を問う深い考察があることから、子どもだけでなく多くの大人の心をつかんでいます。
大人たちがアンパンマンを愛する理由、それは子どもたちの視点とは異なるのでしょうか?大人だから見えていること、考えていることを背景に見据えてアンパンマンを観察すると、その理由が少し見えてきました。
生きさせることで、自分が生きる
アンパンマンは、自分の顔を食べさせることで人を助けるヒーローですが、顔がなくなってしまったら、どうなってしまうのでしょうか?
“ そのとき、アンパンマンはなくなりますが、アンパンマンのいのちは、たべさせることによっていきるのです。”
(「それいけ!アンパンマン」(作・絵 やなせ・たかし フレーベル館))
初期のアンパンマンの絵本では、顔を食べさせて体力が弱り、ふらふらになって空を飛ぶ様子が描かれていて、人を助けることで自らの命を犠牲にしていることが分かります。
ですが、人を助けることそのものが、アンパンマンの生きる活力。限りある命を分け与える自己犠牲の姿勢があるからこそ、その献身的な姿に大人たちは感動するのかもしれません。
人助けには、限界がある
ある日、山の中で群れとはぐれ、とてもお腹をすかせた子ざるを助けに行ったアンパンマン。たくさん顔を食べさせ、子ざるを森に送り届けると、森の中からたくさんの子ざるの仲間が押し寄せてきました。おいしそうなアンパンマンの顔を食べようとする子ざるたちに向かって、アンパンマンが言った言葉は…
“しぬほど
おなかが すいている
ひとで なくちゃ
ぼくの かおは
たべさせられない。”
(「それいけ!アンパンマン」(作・絵 やなせ・たかし フレーベル館))
顔を食べさせることで人助けをするアンパンマンですが、残念ながらその顔は一つ。元気な人みんなに食べさせてはあっという間になくなってしまい、本当に助けが必要な人には行き届きません。
実際の社会でも、だれかがだれかを助けることには、資源や時間などさまざまな限界があります。そうしたことを理解した上で紡がれる物語は、何が優先的に支援されるべきかを教えてくれるのです。
正義は、かっこわるいもの
作者のやなせ・たかしさんは、スーパーヒーローが好きだと言った上で、こんな疑問点も持っていました。
“いつもふしぎにおもうのは、大格闘しても着ているものが破れないし汚れない”
(「キンダーおはなしえほん傑作選8 あんぱんまん」(フレーベル館))
敵や災害と戦うアメリカンヒーローは、超人的な力を持ち合わせ、かっこいいコスチュームや必殺技で人気を得ています。それに比べてアンパンマンは、こげちゃいろのマントに身を包み、顔はジャムおじさんが焼いてくれるあんこがたくさんつまったアンパン。だれかを助ける度に、顔は食べられ、なくなってしまいます。
温かみはありますが、かっこよさからは遠い存在かもしれません。これについて、やなせさんはこう言及しています。
“ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。”
(「キンダーおはなしえほん傑作選8 あんぱんまん」(フレーベル館))
正義に自己犠牲はつきもの
“さて、こんな、あんぱんまんを子どもたちは、好きになってくれるでしょうか。それとも、やはり、テレビの人気者のほうがいいですか。”
(「キンダーおはなしえほん傑作選8 あんぱんまん」(フレーベル館))
だれかを助けることは、力や時間など、自分の持っているものを分け与えること。アンパンマンを通じてやなせさんが伝えたかったもの、それは、捨て身の心でないと正義は行えないというメッセージ。本当のかっこよさは外見では計れないもの。そして、本当のヒーローは無敵ではないという等身大の正義のかたちに、大人たちは親しみを感じ、深く共感するのかもしれませんね。
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