ドミノ効果で習慣の連鎖をつくり出す
人間の行動には連動性があります。ジェニファー・リー・デュークスという名前の女性のケースを見てみましょう。デュークスさんは、大学を卒業してから25年間、母親やゲストが泊まりにきたとき以外は、ベッドメイクを一度もしたことがありませんでした。
あるとき、デュークスさんは一念発起し、4日間連続でベッドメイクを続けました。いつもなら、そろそろ限界がくるころです。ところが、4日目の朝のこと。ベッドメイクを終えたあと、ふと、部屋に落ちていた靴下を拾いあげ、散らかっていた服を畳んでみました。その流れで、なんとなくキッチンへ行き、シンクから汚れた皿を引っ張り出して、皿洗い機にかけます。さらに、食器棚のタッパを整理し、豚の飾り物をカウンターに置きました。
デュークスさんは後に、「ベッドメイクが家事の連鎖を起こしたんです…(中略)なんだか成長した気分になりました。ベッドをメイクして、シンクをきれいにして、食器棚を整理して、豚をカウンターに飾ることができたんです。私ってなんて大人なの! とうれしくなりました。エネルギーを吸い取られていた家事のバミューダトライアングルから、魔法を使って抜けだしたような感じでした」と語っています。
デュークスさんは「ドミノ効果」を体験したのです。
ドミノ効果とは?
ドミノ効果とは、1つの行動を変えたことで、連鎖反応が起こり、ほかの行動も変わることを言います。たとえば、2012年にノースウェスタン大学で行われた研究がこの効果をよく表しています。この研究では、座った姿勢で娯楽に興じる時間が減ると、摂取する脂肪の量が減ることがわかりました。被験者には、食習慣に関する指示は一切与えられていません。ただ、ソファでテレビを見ながら無意識でつまみ食いをする時間が減った結果、自然と栄養習慣が改善されたのです。1つの習慣が別の習慣を導いた、すなわち、1つのドミノが次のドミノを倒したということです。
自分の生活を振り返ってみれば、同じようなパターンが見つかるはずです。私の場合、ジムに行く習慣を続けると、とくに何もしなくても、仕事に集中できたり、夜よく眠れるようになります。
ドミノ効果は悪い習慣にもあてはまります。携帯をチェックする習慣が、SNSの通知をチェックする習慣につながり、さらに、だらだらとSNSをブラウズし続ける習慣へとつながります。その結果、20分間も時間を浪費してしまうのです。
スタンフォード大学教授のBJ・フォッグ氏は、「1つの習慣だけを変えることはできない。習慣は相互に結びついており、1つの習慣を変えれば、ほかの習慣もおのずと変わる」と言っています。
ドミノ効果の仕組み
私の見たところ、ドミノ効果が起きる理由は2つあります。
1つは、日常生活を構成している習慣やルーチンの多くが互いに関連しあっていることです。生物の世界には、驚くほどの相互連関性があります。人間の行動も例外ではありません。生活のある領域における選択が、別の領域に思いがけない影響をおよぼす根本原因は、この、生き物にとって本質的な連関性にあります。
2つめは、ドミノ効果が、人間行動の根本原則の1つである「コミットメントと一貫性」をうまく利用していることです。そのメカニズムは、人間行動に関する名著、ロバート・チャルディーニの『Influence(邦題:影響力の武器)』の中で詳しく説明されています。要約するとこうなります。
人はある考えや目標にコミットすると、それがどんなにささいなコミットだったとしても、その後もコミットメントの一貫性を保とうとする。それは、コミットした考えや目標が自己イメージに取り込まれるためである。
冒頭の、ジェニファー・リー・デュークスさんの事例に戻れば、毎日ベッドメイクをするたびに、「私は家をきれいにしておく人間だ」という考えに小さくコミットし続けたことになります。そして、何日かたったころには、家のほかのことについても、この新しい自己イメージどおりの行動を取るようになったのです。
これはドミノ効果の面白い副産物です。ドミノ効果で新しい習慣の連鎖がつくられるとともに、個人的な信念が変わることもよくあるのです。小さなドミノが1つ倒れるたびに、新しい自己イメージが強化され、その新しいアイデンティティをベースとした新しい習慣がつくられていきます。
ドミノ効果をつくる3つのルール
ドミノが倒れるのをじっと待っている必要はありません。ドミノ効果を自分でつくり出すこともできます。それは、新しい習慣が次の行動をおのずと喚起するという、良い習慣の連鎖をつくりだすということです。
実際の生活のなかでドミノ効果をつくり出すために、3つのポイントがあります。いわば、ドミノ効果の3つのルールです。
1.最もやる気を感じられることからはじめる。小さな習慣に取り組み、それを継続する。そうすることで、達成感が得られるだけでなく、新しい自己イメージの獲得にもつながる。とにかくまず1つのドミノが倒れればよく、どのドミノが最初に倒れるかは重要ではない。
2.勢いを殺さないように、ただちに次のタスクにとりかかる。1つの行動を達成した勢いを、次の行動に直接つなげるようにする。この繰り返しにより、新しい自己イメージが強化される。
3.達成に不安がある場合は、タスクを小さく実行可能なものにする。ドミノ効果は、進んでいること自体が重要で、結果は重要ではない。勢いを保つことに注力する。1つのドミノが次のドミノを自動的に倒す連鎖反応が止まらないよう気をつける。
1つの行動が次の行動につながらないときは、たいてい、この3つのルールのどれかに反しています。ドミノを倒していくルートは無数にあります。自分がやる気を感じる習慣にフォーカスして、連鎖反応を起こし続けてください。
The Domino Effect: How to Create a Chain Reaction of Good Habits | James Clear
James Clear(原文/訳:伊藤貴之)
Photo by ShutterStock
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