マインドフルネスで、脳を休息させよう
そんな人は、身体ではなく、脳が疲労しています。
たいていの人は、「休息=身体を休めること」だと思い込んでいます。(中略)
しかし、それだけでは回復しない疲労があります。それが脳の疲れです。(中略)
脳疲労は肉体疲労とは根本的に異なりますから、どれだけ身体を休めても、知らないあいだにどんどん蓄積されていきます。
そして、それが積もり積もって慢性化すると、人生のあらゆるパフォーマンスが低下し、ひどいときにはいわゆる心の病へと至ります。(「はじめに──科学的に正しい『脳の休め方』」より)
そう語るのは、『世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』(久賀谷 亮著、ダイヤモンド社)の著者。イェール大学で学び、現在はロサンゼルスのサウスベイにあるメンタルクリニック「トランスホープ・メディカル」で院長をしている人物です。クリニックをはじめてから約6年にわたり、地域の人々の心の問題に向き合ってきたといいます。
脳は「なにもしない」でも、勝手に疲れていく
アメリカの精神医療においては、瞑想などを含んだ第3世代認知行動療法といった最新トレンドが生まれているそうです。と聞くと、「なにも考えずにぼーっとすれば、脳は休まるだろう」と思いたくなりますが、どれだけ無為な時間を過ごしても、それだけで頭は休まらないのだといいます。それどころか、どんどんエネルギーを消耗し続ける可能性すらあるのだとか。
脳は体重の2%ほどの大きさでありながら、身体が消費する全エネルギーの20%を使う「大食漢」。さらに脳の消費エネルギーの大半は、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という脳回路に使われているのだとか。DMNとは、内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部、下頭頂小葉などから構成される脳内ネットワークで、脳が意識的な活動をしていないときに働くベースライン活動。
自動車のアイドリングをイメージするとわかりやすいと言いますが、つまり、ぼーっとしていてもDMNが過剰に働き続ける限り、脳はどんどん疲れていくというわけです。だとすれば、DMNの活動を抑える脳構造をつくっていかないと、真の休息は訪れないでしょう。だから「脳の休息」が大切だということで、マインドフルネス(瞑想などを通じた脳の休息法の総称)に注目が集まっているというのです。
事実、「脳の休息」の大切さをわかっているアメリカのエリートたちは、マインドフルネスを実践しはじめているのだとか。なぜなら、マインドフルネスこそが「最高の休息法」だと知っているから。そこで本書では、「最高の休息法」としてのマインドフルネスについて、脳科学的な知見も交えながら解説しているわけです。
物語形式になった本編にもどっしりとした読みごたえがあるのですが、きょうはそのベースになっている”助走パート”である「まずはこれだけ! 脳の疲労を解消する7つの休息法」のなかから、特に重要な3つを引き出してみましょう。
脳が疲れているときーーマインドフルネス呼吸法
注意散漫、無気力、イライラなどは脳疲労のサイン。その根本的な原因は、意識が常に過去や未来ばかりに向かい、「いまここ」にない状態が慢性化していることにあるといいます。だからこそ、現在に意識を向ける「心の練習」をすることによって、疲れづらい脳がつくれるのだそうです。
1. 基本姿勢をとる
・椅子に座る(背筋を軽く伸ばし、背もたれから離して)
・お腹はゆったり、手は太ももの上、脚は組まない
・目は閉じる(開ける場合は、2メートルくらい先を見る)2. 身体の感覚に意識を向ける
・接触の感覚(足の裏とゆか、お尻と椅子、手と太ももなど)
・身体が地球に引っ張られる重力の感覚3. 呼吸に注意を向ける
・呼吸に関わる感覚を意識する(鼻を通る空気/空気の出入りによる胸・お腹の上下/呼吸と呼吸の切れ目/それぞれの呼吸の深さ/吸う息と吐く息の温度の違い…など)
・深呼吸や呼吸コントロールは不要(自然と呼吸がやってくるのを「待つ」ような感覚で)
・呼吸に「1」「2」…「10」とラベリングするのも効果的4. 雑念が浮かんだら…
・雑念が浮かんだ事実に気づき、注意を呼吸に戻す(呼吸は「意識の錨」)
・雑念は生じて当然なので、自分を責めない
(21ページより)
これらを、1日5分でも10分でもいいので、毎日続けることが大切だといいます。そして脳は「習慣」が大好きなので、同じ時間、同じ場所でやることが重要。(20ページより)
気づくと考えごとをしているとき──ムーブメント瞑想
マルチタスクの時代である現代は、誰もがなにかを「しながら」別のことをやっているもの。日常的な所作のなかで「自動操縦モード」になっているときほど、頭には雑念が浮かびやすくなるといいます。これが常態化すると、注意力・集中力が低下しかねません。そこで、グーグルの社員研修「SIY」にも取り入れられているムーブメント瞑想を。
1. 歩行瞑想
・スピードは自由だが、最初はゆっくり歩くのがおすすめ
・手脚の筋肉・関節の動き、地面と接触する感覚に注意を向ける
・「右/左」とか「上げる/下げる」のように、自分の動き(ムーブメントムーブメント)にラベリングする2. 立った姿勢でムーブメント瞑想
・足を肩幅に開いて立ち、伸ばした両腕を左右からゆっくり上げていく
・腕の筋肉の動き、血液が下がってくる感じ、重力に意識を向ける
・上まで来たら、今度はゆっくり下げながら同様に(これを繰り返す)3. 座った姿勢でムーブメント瞑想
・椅子に座った状態で、後ろから前にゆっくり両肩を回す
・筋肉や関節などの動き・感覚へ細かく注意を向ける
・一周したら、逆に肩を回しながら、同様に注意を向ける4. そのほかこんな方法も
・日常の動き(服を着る/歯を磨くなど)に意識を向ける
・自動車の運転中に、シートとお尻が触れている感覚、手がハンドルに触れている感覚、ハンドルをきったりブレーキを踏んだりするときの筋肉や関節の動きに注意を向ける(くれぐれも事故には注意を)
・ラジオ体操をやりながら、体の動きや感覚を意識する
(23ページより)
「玄関を出たところからスタート」「駅の改札を出たら開始」など、ムーブメント瞑想をやるタイミングをあらかじめ決めておくと習慣化しやすいそうです。それから、日々の食事に注意を向けることも大切。(22ページより)
怒りや衝動に流されそうなとき──RAIN
脳に過度なストレスがかかると、本能や感情を司る扁桃体が暴走をはじめるのだといいます。通常は、理性に該当する前頭葉がそれを抑えつけますが、瞑想を続けていると、両者がフラットに均衡する脳構造をつくっていくことが可能だとか。そこで、怒りを感じたときには、RAINの4ステップで衝動をコントロールすることが大切。
1. Recognize(認識する)
・自分のなかに怒りが起きていることを認識する
・怒りと怒っている自分を同一視しない2. Accept(受け入れる)
・怒りが起きているという事実を受け入れる
・その事実に価値評価を加えず、そのまま許す3. Investigate(検証する)
・怒ったときに身体になにが起きているかを検証する
・心拍はどう変化している?
・身体のどこが緊張している?4. Non-Identification(距離をとる)
・自分の感情を個人的にとらえない
・怒りを突き放して「他人事」のように考えてみる
(29ページより)
これは、怒り以外のさまざまな衝動(クレーヴィング)にも有効だそうです。なお、目的意識が強い人ほど、心のゆとりがなくなり、衝動に走りやすいそうなので注意。(28ページより)
先にも触れたとおり、メインは物語形式の本編ですが、これだけでも試してみる価値はあるはず。そしてこののち本編に進んでみれば、脳のパフォーマンスをさらに高めることができそうです。
(印南敦史)
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