「人生を豊かにするものに投資する」個人投資家・山口豪志さんの「投資の基準」
個人投資家の山口豪志さんは、学生時代は昆虫博士を目指していたそうです。山口さんがビジネスの世界に飛び込んだきっかけは、1人の高校生と出会ったこと。彼は山口さんよりも昆虫に対する知識豊富な天才少年でした。山口さんは人生の目標を「昆虫博士になりたいやつを応援すること」に変え、そのためにビジネスの世界に飛び込みます。
その後、日本最大級のレシピサイトで知られるクックパッド株式会社の上場や今ではクラウドソーシング事業の最大手として知られる株式会社ランサーズの事業開発や広報活動に深く関わったのち、山口さんは個人投資家に転身します。今回は、個人投資家としてベンチャー支援のために精力的な活動を行っている山口さんに「投資」をどのように考えているのかをうかがいました。
山口豪志(やまぐち・ごうし)
個人投資家、ビジネスコンサルタント。日本最大規模のレシピサイト「クックパッド」を運営するクックパッド株式会社のIPOに営業セールストップで貢献したのち、株式会社ランサーズに参画し大手企業との業務提携・協業を実現するとともにクラウドソーシングの普及・啓蒙に携わる。2015年よりベンチャー投資会社デフキャピタルのアクセラレーター、また同年、株式会社54を創業。投資、コンサルティング等で事業に関わった会社の数は数十社にのぼる。
32歳の個人投資家の投資基準
── 投資先を決める基準を教えてください。
山口:まず、僕が関わりたいと思っているテーマと投資を検討するビジネスのテーマが重なっているかどうかがポイントです。また、投資を検討する起業家が「諦めない人」「想いが強い人」なのか、この2点も見ます。
1. ビジネスインフラと人生を豊かにする「ヒューマンインフラ」に対して投資する
── どんなテーマを持っているかことが決め手になるんですか?
山口:僕が関わりたいと思っているテーマとは、教育・本・旅・友だち(ヒューマンインフラ)と人・もの・金・情報(ビジネスインフラ)の8つです。これに気付いたのは、クックパッドを退職したころにした南米や南極を巡る旅の最中、亡くなった父に子どもの頃から言われ続けていた「本と旅と友だちが人生を豊かにする」という言葉と向き合ったときです。
本は間接的に誰かの知恵・経験を借りてきたもの(間接経験)。旅は直接的に自分で体感すること(直接経験)。友だちとはコミュニケーションをして話し合う──共有経験みたいなものですね。人生とはそういう時間の使い方の積み上げなんだなと気づいたんです。
そして、ビジネスインフラのように、人生、つまりは人を形成する上で大事なヒューマンインフラが4つあるなと。父の言葉にあった、本と旅と友だちがまずそれだと思いました。4つ目は「教育」です。本で誰かの経験を読むにせよ、旅をして自ら体験しに行くにせよ、友だちと経験を共有するにせよ、言葉を学ぶなどの教育が重要なんですよね。そして、この4つのヒューマンインフラこそが人生を豊かにするものだと定義したんです。
「どういう人に投資するのか?」という質問にお答えすると、ヒューマンインフラとビジネスインフラ──教育・旅・本・友だちと人・もの・金・情報、僕が関わりたい8つの領域と重なるテーマを掲げている起業家の事業に投資します。ヒューマンインフラもビジネス的に上手くいかないといけないので、ビジネスインフラも結果として必要になるので。そして、人生を豊にするために必要なヒューマンインフラの方もビジネスインフラのサービスにもどこかで関わってきます。
2. 「諦めない人」は上手くいく
──投資する基準が 「諦めない人」「想いが強い人」という考えはどうして生まれたのですか?
山口:起業家はみんな何らかの想いや意志があってビジネスを始めますが、10年間貧乏を続けるのは嫌だったりするんです。成功できずにいると、我慢できずにブレてしまうことになります。しかし、流れが来るタイミングが絶対にあります。流れが来る前に死んでしまったらゴッホのように死後評価されることになりますが、来るまで待てれば、諦めなければ上手くいくはずなのです。
「これからみんなが注目するビジネス」に張る
── クックパッドでIPOを経験、ランサーズが急成長するほど成功された背景には、東日本大震災で内食がトレンドになったという面があるのかなと感じています。ある種の奇跡とも言えるのではないかと思いますが、山口さんは自身の成功についてどのように考えていますか?
山口:成功と言われると恐縮ですが。失敗はそれ以上もしてますし、全然私自身は大した者ではないです。ただ、ヒントとして松下幸之助が晩年に「成功の秘訣は運と愛嬌だ」と言っているんです。運って巡り合わせですよね。人とのご縁もそうですし、東日本大震災でクックパッドが伸びたこともそれに当たります。ランサーズについても同様で、東日本大震災が影響して在宅ワークが普及しました。しかし、それらを見越して仕掛けるなんてことはできません。
投げやりに聞こえるかもしれませんが、たまたま「そこで待っていた人」がいたということなんです。「家族で食卓を囲んで絆を感じるほうがいいんじゃないのか?」とか「在宅ワークをしたほうがみんな自分の時間を大切に過ごせるんじゃないのか?」と考える人たちがいて、彼らにたまたまお鉢が回ってきただけとでもいうか。
つまり、物事は発散と収束の2軸で回っているんです。
メディア業界を例にすると、権威のある書き手やマス媒体が情報を牛耳ってた時代が長かったですよね。ところが、最近ではSNSとかインターネットによっていろんな人が発信できるようになって発散のほうに振れています。あんまりにも発散が広がりすぎてどれを見ていいのかわからないくらいです。
収束と発散の2軸がどのビジネスモデルにもあると思います。アパレル業界でも、男性向けから女性向けまで手広く手がけるユニクロが出てきたかと思えば、今度は25~35歳のタイトな服が好きな男性向けなんてニッチなブランドが上場していたりします。
僕が投資するベンチャー企業は先ほどお話した8つの分野の中で、今はその領域はむしろ日陰、注目されていない部分です。人の目が向いていないブルーオーシャンな世界が僕は好きなんです。それで今は、インバウンドが叫ばれている中で、法人向けの海外出張を手配する「Border」というアウトバウンドなサービスを応援しています。
彼らのサービスはBtoBでアウトバウンド。旅行業界で言えば、BtoCの個人旅行がメインであり事業規模も非常にニッチに写りますが、企業活動としては東南アジアなどとリレーションを増やしています。だから今みんなが注目しているほうではなく、これからみんなが見るところに張りたいですね。
── なるほど、そちらのほうが未来があるということですよね?
山口:そうですね。他の方々が今どう思うかよりも、自分がそれに共感して信じられるかどうかが大事です。今みんなが気づいてないものの良さを拾いあてるほうが何となく楽しいんですよ。新しい新種の昆虫を見つける感じのおもしろさがあるんです。
初期の志はあってやりたいことはあるけれど実モデルがないとか、実モデルはあるんだけど活かし方がわからないみたいな人に関わるとおもしろいですよ。
今上手くいってる会社も3年前はそうじゃなかったんですよね。最初、iPhoneなんて流行るわけないと言われていましたが、今やみんなが持っていますよね。ソフトバンクの孫正義さんが「インターネットの時代が来る」とルーターを配りまくったことがありました。当時は何をやっているんだと馬鹿にされている風潮もありましたが、気付いたら実際にインターネットの時代になってしまいました。そういう、ちょっとだけ未来を見据えた事業を見つけるのが楽しいです。
自分がいなくなっても回り続ける仕組みづくりを目指す
── 2015年4月にコワーキングスペース「YOKOHAMA GLOBAL STATION」をスタートされましたよね。事業としてのコワーキングスペースについて、どのように感じていますか?
山口:まず感じたのは、コワーキングスペース事業自体はどう考えても儲かりにくいということです。1席ごとというように小口に分けた不動産事業な上に、入居企業が出て行ってしまうと収益性が圧縮されますし、スペースに限界があるので利益の上限も決まってきます。普通はあまりやりたくない事業ですね。
でも、コワーキングスペースをやっている人たちには地域に貢献したいという強い想いがあります。ないのは彼らをサポートする術です。僕が今回47都道府県を回っているのは、彼らがプロモーションコストを一切かけずにお客さんが流れてくる仕組みを作ろうと思ったからです。
── 今はコワーキングスペースをサポートする仕組みがないですよね。
山口:僕は自分でコワーキングスペースの運営をやって本当にびっくりしたんですよ。集客コストはかけられないし、入ってくれた企業が事業成長しないでずっと入居しているのは辛いけれど、上手くいくと出ていってしまう。これは果てしないなと。
全体を見たら集まるコミュニティとか地域が実は1番重要で、そこでのハブになっている人を元気にしたり、やっててよかったと想える希望を与えないと何も残らないんじゃないかと思いました。
── コミュニティの運営者ってだいたい損しますよね。気を遣うし、お金も時間も使うのに、全然儲からない。「何をやってるんだろう」と思うことの連続じゃないですか。そういう人が報われる世の中であってほしいと思いますね。
山口:本当にそうなんです。実は、そういう人がとても大切なコミュニティのエンジンなので、彼らがちゃんと利得を得られる仕組みが必要です。
── それは最近の僕のテーマでもありますね。「まったり暮らせばいいじゃん、みんな貧乏でも」と言っても、人間持たないんですよね。
山口:持ちませんね。昔は何かのお礼に感謝の言葉とともに庭でとれた柿なんかを持ってきたしたじゃないですか。地域って貨幣経済じゃなくて見えない経済で回っているとでもいうか。
アルビン・トフラーの『富の未来』という本が好きで、かなり読み込んでいるんですが、その中で「顕在化した経済」と「潜在化した経済」という概念が出てきました。
顕在化した経済では何かをやってくれたからお金を払います。ビジネス的な仕事ですね。
それに対して、潜在化した経済の1番の主体となるのは親子の愛情なんです。子どもが大人になって親にお金を払うと言ってもいくら払うんでしょうか? ミルクをくれて24時間ケアしてくれて、とんでもない拘束でコストがかかるというのに。でも、この潜在化した経済が顕在化した経済を支えているのは明らかです。
地域のコミュニティハブになってくれるような人って、人の世話が本当に好きじゃないですか。そういう人を元気にしたらきっと周りにも分配して周りも元気にしてくれます。でも、そういう人を「元気にし続ける」のが僕が考える未来への1番の近道なんじゃなかろうかと今思っているんですよ。要は僕がいなくなった後でもコミュニティが回る仕組みをつくりたい。一生かけてやるのは僕にとってこれなんじゃないかと思ってるんです。
── イノベーションなどよりもですか?
山口:そうですね。もちろん、技術イノベーションも投資をしてサポートしたいと思っていますが、たぶん今の自分だから関われる領域なんですよね。残念ながら僕が死んだら継続できません。
── どういうことですか?
山口:僕の知見やネットワークは、僕が現役のときにしか機能しないと思うんです。たとえば、僕が70歳くらいまで仕事を続けるとしたら、仲間も同じくらいの歳になります。人的資産として古びてしまうわけです。
もし事業をサポートするのがコミュニティになれば、コミュニティが栄えている限り半永久的に事業支援が続きますよね。仮説ではありますが、これはたぶん仕組み化できるし後代に残せると思っています。
── 後の人が引き継げるコミュニティモデルをつくるということですよね。
山口:そうです。コミュニティマネージャーがいて、その人に憧れるコミュニティマネージャーの卵みたいな人が出てきて、先輩が亡くなったら彼らがコミュニティを引き継ぐといった仕組みですね。人を育んで、育んだ人が成長していく。これこそが1番重要な作るべきアセットだと思っていて、僕1人がそれに取り組んだとしても、本質的にはあまり意味がありません。
僕のコピーは作れないので、各都道府県にコミュニティマネージャーが育つようにできればと思っています。僕はつないだり、種をばらまいたりするのが好きなんです。
── でもそれって山口さん自身はあまり儲からないですよね?
山口:そうですね、短期的には難しいとは思います。ただ、私の場合はコンサルティングなどの短期的な事業収入はありますからね。また、中期的な事業としてはインキュベーション施設の運営などがあります。そして投資事業は長期的なものと考えています。自分が稼いだお金は全部、バランスをとりつつ短期・中期・長期で振り分けています。
── 最後に、最近心に響いた言葉はありますか?
山口:二宮尊徳の「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」ですね。200年ほど前の言葉ですが、これ以上の金言はないかもしれません。
この言葉で言われているのは、社会には親子関係のような愛情が絶対に必要だということです。愛情がないと社会に必要な人間が生まれなくなってしまう。
その一方で、経済的な合理性も重要です。特定の1人のための料理店なんかつくってもコストに見合いません。みんながお腹すいたときに行けて自由に使える──万人に間口が開いているほうが経済的合理性がありますよね。
この2つのバランスをとりましょうと二宮尊徳は言っているわけです。とても深いメッセージだと思いませんか?
先が読めないと言われる現代、山口さんのように現実と理想をバランスよく見据えながら将来に投資し続けることが、投資に携わる人だけでなく、すべてのビジネスパーソンにとっても重要なことなのかもしれません。
(聞き手/米田智彦、構成・撮影/神山拓生)
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