カルロス・ゴーンが語った自動運転技術の未来

2017.4.8 12:07 更新

読了時間:8分25秒

カルロス・ゴーンがSlush Tokyoで語った4つのこと

Slush Tokyo

2017年3月30日、東京ビッグサイトでSLUSH TOKYO 2017が開催されました。SLUSHは2008年からフィンランドで開催されているスタートアップの祭典です。日本での開催は3回目となる今回は、SLUSH TOKYOと名前を改め、5000人を超える起業家や投資家、メディア関係者が集まりました。

Slush Tokyo

Slush Tokyo 2017のメインステージ。世界の自動車産業を率いるカルロス・ゴーン氏の話を聞くべく集まった参加者で会場はほぼ満席となった。

この記事では、2日目に登壇した日産・ルノー自動車のCEO兼会長であり、三菱自動車の会長も務めるカルロス・ゴーン氏が自動運転技術の未来について語ったスピーチを要約してお届けします。

自動運転が私たちにとって重要である3つの理由

昨今の自動車産業においてもっとも重要な変化は、車の電動化、コネクティビティ(自動車同士の高速通信)、自動運転の3つです。中でも重要なのは、自動運転です。
なぜ重要なのか説明しましょう。自動車事故が起きる原因の90パーセントはヒューマンエラー、つまり人間の判断ミスなどによるものです。つまり、自動車の運転において、人間に頼っている部分を減らし、機械に任せる部分を増やせば増やすほど、自動車事故を減らすことができるということです。だからこそ、自動運転は世界中の政府によって支持されています。
自動運転は、運転をより楽しく、生産性の高い時間にしてくれます。車を運転する多くの人は渋滞に巻き込まれて多くの時間を無駄にしています。それは市街地でも、高速道路でも同じです。自動運転で運転を機械に任せることができれば、運転中に好きなことができるようになります。つまり、運転の時間をより楽しく過ごせるし、生産性も高くなります。
さらに、自動運転は、日本のような高齢化する社会において、より多くの人が移動手段を確保する手助けをしてくれるでしょう。日本では、2030年に人口の3分の1が65歳以上になると言われています。人間は歳を取れば取るほど運転にかけられる注意力が減っていき、運転が難しくなります。特に、田舎に住んでいて、車が唯一の移動手段となっている高齢者にとっては大きな問題です。自動運転はこうした高齢者から移動手段を取り上げるのではなく、移動する自由を与えることができるのです。

ドライバーレスの完全自動運転車は2022年に登場する

自動運転の技術は一夜にして登場するわけではありません。この変化は波のように段階を踏んでやってくるでしょう。
そして、その波は日本から始まっています。今、日産のセレナには、高速道路の同じ車線を自動で走行できる自動運転技術が搭載されています。これは、すでに市場に登場しています。
2018年には高速道路で複数の車線を走行する自動運転技術が実用化されます。これはつまり、高速道路に乗って自動運転モードにしたらあとは高速道路にいる間は機械にお任せでいいということです。
2020〜21年には、市街地での自動運転も実用化されます。
そして、2022〜23年には、オールコンディションの完全自動運転が実用化されます。これはつまり、ドライバーのいない自動運転になるということです。この頃には、自動運転のタクシーも登場するでしょう。そしてもちろん、自動運転タクシーに強い興味を持っているUberやLyftといった企業が台頭してくると思います。
さて、このような人間のドライバーがいらなくなる時代を前に、さまざまな疑問があります。例えば、自動運転があるのに人々は今までのように車を所有したがるでしょうか? 車を所有しなくても、移動したいときに自動運転タクシーを呼べばいいじゃないか、ということです。しかし、私は車を所有することがなくなるとは思いません。車は移動のための手段ですが、車を所有するかどうかは合理性だけで判断することではなく、感情的な判断でもあるからです。
シェアリングカーのような車の使い方から生まれる新しいマーケットも広がりますが、どちらが生き残るかという話ではなく、これまでのマーケットと新しいマーケットの2つが共存していくことになるでしょう。

自動車は「モバイルな空間」になる

自動運転と聞くと、自動車メーカーの名前より、IT企業の名前が浮かぶかもしれません。GoogleやAppleといった企業が自動車の開発に興味を持っているとメディアで見たり聞いたりしますよね。でも、IT企業たちは自動車メーカーになろうなんて全く思っていません。その理由は、AppleやGoogleのような企業は、自動車産業で得られるよりも多くのお金をIT産業で得ているからです。今より少ない利益しか得られない分野で新しくビジネスを始める企業はいません。自動車メーカーがIT分野に進出することはありえますが、IT企業が自動車分野に進出することはありえないのです。
IT企業が自動車や自動運転に興味を持っている本当の理由は、自動運転が人々の人生に大きな、そして重要な変化をもたらすとわかっているからです。自動運転によって自動車が変われば、自動車にIT企業のサービスやアプリケーションを埋め込むことができるようになるでしょう。
例えば、つい最近まで、電話は電話しかできませんでした。しかし、今はスマートフォンが1台あれば電話はもちろん、メールを見たり、インターネットをしたりとさまざまなことができます。
自動車にも同じことが起きます。自動車はこれまで移動するための装置でした。でも、これから自動車は「モバイルな空間」になるでしょう。その空間では何をしてもいいのです。仕事をしてもいいし、映画を見てもいいし、会議に参加してもいい。その間に目的地まで移動してくれるのですから。
IT企業にとって、この変化は非常にエキサイティングなものになるでしょう。

イノベーションは誰も信じないところから起きる

日産は2010年からEV(電気自動車)をリリースしましたが、その頃、EVの成功を疑う人は多くいました。今でも疑問視する人はいます。しかし、私たちはとてもシンプルな理由でEVの開発を決定しました。
自動車メーカーは世界で毎年9000万台の車を製造しています。そして、毎日10億台の車が世界中で走っています。この数字は増え続けていて、特に中国、インド、ブラジル、アフリカといった国で車はもっと増えるでしょう。そう考えたとき、現状の排気基準のままでは地球の未来はありません。これからの世界において、電気自動車は私たちにとって重要なテクノロジーの1つなのです。
1つ伝えておきたいことがあります。イノベーションを起こしたいなら、誰もうまくいくと信じないようなアイデアを持ち寄らないといけません。周りの人が全員「そのアイデアは良いアイデアだ」と言ったら、それはイノベーションにはなりません。
覚えておいてください。イノベーションはいつでも困難を伴います。そして、周りからの批判や疑いを乗り越えて生まれるものなのです。

完全な自動運転が実現する世界はもう目の前まで来ています。自動運転の未来から目が離せません。

(文・写真・聞き手/大嶋拓人)

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Lifehacker
 

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